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その後、みんなのとこに戻ると、職員室に呼ばれた理由を話しながら軽く昼食を済ませた。
この頃、由紀ちゃんは付かず離れずの距離で食事を摂っていたので、俺が居ないので探しに来てたと言うことだった。
まあ、結果的にはナイスタイミングで静月の誘惑から、目を覚まさせてくれたわけだけど……、見られたかな……、でもまあいいや、静月とはもう関係ないのだし、もし噂が広まったとしてもどうってことない、他人に何を言われようがあんま気にならない。
ただ静月に対してもそうなりたいものだが、あいつに関してはそうも上手く事は運ばないわけ
で……、一度、火が点いた感情はそうそう消すのは難しい。
そんなことを思い悩みながら、昼食後、何時ものように保健室へと来たのだが、ドアを開けると俺専用のベッドには、座って脚をブラブラさせながら、棒キャンデイーを舐めている瑛斗が居た。
「なんで居るん?もうすぐ授業だし」
「え、同じ言葉返すよ、僕は先生待ってんの」
保健室には瑛斗以外は誰も居なかった。
開け放された窓から風が吹いて、白いカーテンをヒラヒラ動いていて、気持ち良い午後だった。
「じゃー、そこどいてよ、俺寝るし」
「ヤダ、僕ここがいいんだもん」
「ここ俺専用ね?さ、どいたどいた」
俺は反対側からベッドへゴロンと横になった。
「えー、だめー、僕もこっちのベッドがいいんだ、先生のデスクに近いから」
そう言いながら、俺の肩を押してどかそうとしている。
チッ。
「触んな」
「君こそ、もうひとつのベッドでいいじゃん、寝るだけでしょ?」
「こっちがいい理由は、頭上に窓があって、そこから風が吹いてきて気持ちいいの、わかった?」
「対して変わらないじゃん」
「変わる!」
そして、今度は反対に俺が瑛斗の背中を押してベッドから降ろそうとしたら、反発されてごろんと横に並ばれた。
「おま……」
「譲らないからーっ、だって僕が先じゃん」
「おまえ、授業サボったことないだろよ、もう始まるぞ?教室戻れよ」
「今日は先生に大事な話があるの!だから待ってるんだから、君こそたまには授業受けないと落第しちゃうよ?」
今それ言うなし……、嫌なこと思い出すじゃないか……。
「ほっとけ!」
「どいてくれないのなら、静月呼ぶからね!」
「なんで静月だよ、やめろ」
瑛斗はポケットからスマホを取り出した。
俺はギョッとしてそれを奪おうとするが、瑛斗は手広げて俺の届かない位置へとスマホを遠ざける。
「じゃあ、向こうに移ってくれる?」
「ふざけんなおまえ!」
瑛斗はニッと勝ち誇ったように微笑んだ。
悔しいけどその顔が可愛くて争う気が失せたので、天井に向き直して溜息を吐く。
「ねぇねぇ、どうなってんの君たち」
「どうって、何が?」
「もう……、君と凌駕だよ」
チラリと瑛斗を見たら、ニコニコしながらこっちを見ていた。
ああ、うぜぇ……。
「あいつとはもう関係ないし」
「君はいつもそんなこと言うけどさ、凌駕は君にぞっこんじゃないか、君もでしょ?僕にはわかるよ」
「ないない、まあ静月は俺のこと都合のいい相手だと思ってんじゃね?」
俺はそう言い捨てて、瑛斗に背中を向け目を閉じた……もうマジで忘れたい。
だが瑛斗は起き上がり、多分俺を見下ろす気配がした、だけど俺はそれを無視して寝た振りをした。
瑛斗はしばらく考え込んでいたようだが、それ以上言うことを諦めたのか、再び俺の横に寝転がり、飴を舐めながらアニメの主題歌を歌い始めた。
「おい、うるせーな!」
寝返りを打って文句を言う。
「だったら向こう行けば?」
「お前が行けよ!」
「ヤダ、ここで眠りながら先生の仕事してる姿見るんだもん」
「アホか!保健室でイチャつくな!」
「イチャついてなんかないもん!先生僕のモノじゃないし!」
「あー、そうだったな、お前は長瀬の遊びの相手だったわ」
「!!!」
俺がそう言うと、瑛斗は見る見る大きな瞳に涙を溜めたと思ったら、びゃーっと大声で泣き出した。
「うぁ……おい……なんだよ……」
焦る俺……。
「そんな……こと……わかって……るもん!せん……せぃは……ぼくの……ことなんか……」
嗚咽しながら泣くので言葉が途切れる、小学生かよ……。
なんか何時も気取って澄ましてる、こいつのイメージが崩れてゆく。
そして流石に言い過ぎたと、俺も反省する。
「悪かったよ……言い過ぎた、ごめん」
「ほんとにそう思ってる?」
瑛斗は目を擦る指の間からチラリと俺を見た。
「うん……」
「じゃあ、このベッド僕に譲って!」
そう言うなり、瑛斗は飴をぺろぺろ舐めながら再びベッドに横になった。
「おまっ……、ウソ泣きかよ、ふざけんな!」
「わーい、ベッド頂き!」
「ひとが真剣に謝ったのに、クソビッチ!」
「ひっどーい、先生に言いつけるからね!」
「どーぞどーど、クソ教師とか怖くねーわ!」
「やめてよ、ほんと君って言葉使い汚ったなーい!」
「じゃあ、向こうへ行けよ!俺はここで寝る」
俺は再び瑛斗の横にずび込んだ。
「おしくらまんじゅうみたいだね」
瑛斗がそう言ってどこか嬉しそうに笑うと、振動が背中から俺に伝わってきた。
なんで俺こいつと同じベッドで寝てるんだろう……、少し前なら全く関りの無かった相手、ちょっと生意気で小悪魔的な高梨瑛斗、その幼馴染である静月凌駕もまたその一人だ。
静月……、どうしてそんなに俺に構うんだよ……。
おまえが俺に触れる度に、心が揺らぐ……、これ以上傍に居ても傷つくと分かっているのに、拒否しきれない……。
なのにおまえはあいつの彼氏で……、思い出すと泣きたくなった、俺って今までこんなに往生際悪かったかな……、目覚めたらきれいさっぱり忘れていたとか、映画みたいなこと怒らないだろうか……、なんてしょうも無い事を考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
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