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ふと目が覚めた。 まず視界に入ったのは保健室らしい無機質な天井と、ちゅ……くちゅ……と言った聞きなれたリップ音……。 その聞こえる方向へと顔を向けると、隣のベッドで横たわった瑛斗に長瀬がキスをしていた。 瑛斗の腕が長瀬の首に掛かり、目覚めて居るのは明らかで、時折淫らな溜息を交えて身体をくねらしていた。 おい、またかよ! 俺はいきなり起き上がった。 「おまえら!」 「あ……」 気が付いた瑛斗が俺を見て声を漏らした。 「ここで盛ってんじゃねーよ!」 「ちゃんと服着てるし!」 瑛斗が俺を睨みながらそう言った。 そして長瀬が微笑みながら起き上がると、瑛斗は名残惜しそうにその白衣を握りしめた。 「やだ先生!」 「やだじゃねーよ!クソビッチ、ここどこだと思ってんだ教室戻れよ!」 「ひっどーい!でもさ、君も今何時だと思ってんの?もうすぐホームルーム終わる時間だよ、そっちこそ教室戻った方がいいんじゃないの?」 時計を見ると確かにそんな時間だった。 「瑛斗も戻るんだ」 長瀬がそう言うと、瑛斗の顔が途端に曇った。 「えー」 「俺もこれから職員会議あるしね」 長瀬は机の上に置いてあった書類を整理しながらそう言った。 「わかった、じゃあ今晩ね」 「うん。だけど先に仕事終わらせたいから遅くなるよ」 「いいよ、だって今日は金曜日で、明日は創立記念日で休みだし、時間はたっぷりあるからね」 エッチ三昧かよ! 瑛斗は頬を赤らめながらニコリと微笑んでそう言った。 乙女か! どいつもこいつもラブ中な奴らばかりでシメてやりたい。 でもその前に静月にフラグを立てた俺は、ベッドから降りて入口に向かい、そして腹立ち紛れに保健室のドアを思い切り開けようとして、自分の腕に何かキラキラ輝いているのを見つけて驚いた。 「な……んだこれ……」 後ろから瑛斗が覗き込んで来たと思ったら、ハッと息を呑んだのがわかった。 俺の手首にはダイヤが埋め込まれた、高価そうなシルバーのブレスレットが嵌められており……、イヤイヤ……ダイヤってこれ偽物だろう? ジルコニアだって無駄に輝くと言うじゃねーか、てか、どうしてこんなものが俺の腕に? 「誰だよ!こんな安物俺の腕に嵌めた奴は!」 「それさ……、静月が嵌めてたブレスじゃ?」 瑛斗は相変わらず後ろ横から覗き込んだまま言う。 「え?」 「中見てみて、きっと名前が彫ってある……」 そう言われて、ブレスレットの内側を見てみたら『Ryoga』と刻印がされていた。 ええー、なんで? 「しかも安物じゃなくて、有名ブランドの特注品。お得意様しか作ってくれない物だから、50万は下らないと思うよ」 えええー、まじでーーーっ? 瑛斗が小ばかにしたように俺を見た。 その顔は、『こんな高いものをなぜコイツに?』って顔してる……、俺もわかんねーよ! もしかして、この前貰ったやつを俺が捨てたから? だとしてもこんな……いきなりうぜーわ! さっさと外して突き返そうといじり倒していたが、外し方が全く分からずイライラしてたら、横にいた瑛斗が再び鼻で笑った。 「外すのは無理。凌駕が持ってる専用ドライバーじゃないとね」 「え?なにー!?どういうことだよ、ふざけんな!」 「僕に怒らないでよ」 そりゃそうだけど、目の前の誰かに当たらずにいられるかってんだ! 俺はあいつと手を切りたいんだ、なのにこんなもの腕に嵌められるとか、怒りがマックスに達する。 「あいつ、何かごそごそやってると思ったら、そんなことしてたのか」 長瀬が呑気そうにクスリと笑う。 「あいつぶん殴ってやる!」 その勢いでホームルーム後の、人も疎らな教室に戻った俺は、静月を探したがその姿を見つけられなかった。 鞄に荷物を詰めていたあずみを見つけて聞くと、さっき由紀ちゃんが友達と呼びに来て、一緒に出て行ったとのことだった。 その展開はきっと今頃可愛い女子に告られてんだろうな……、そう思うと探しに行くわけにもいかず、出鼻をくじかれ戦闘意欲が少しばかり薄れて行く。 クソ……。 「それでね、葵に会ったらここで待つよう伝えてくれって、言ってたわ」 「待つわけねーだろっ、あずみ今日ヒマ?遊びに行かね?」 「残念だけど今日はこれから部活だよ、葵は夕飯作らなくていいの?」 「最近さ、妹が結構料理作ってくれんだよね」 「すずいちゃんも中学生だもんね、葵も助かるじゃん」 「母親に似て煩いけどな」 「それは葵のお痛が過ぎるからよ」 あずみはフフッと笑いながら鞄を肩に掛けた。 「じゃあ、私行くよ、ごめんね」 「おう」 ヒラヒラ手を振って、あずみは教室から出て行った。 なんかつまんねー、戻って来るのが遅すぎたのか、大河も居ないし、そして将生はとっくに部活へ行ったらしい。 環ちゃんや天使ちゃんたちの姿も見えないし、寂しいぞ……。 そう思いながらトボトボと校門を出て来たところで、一人の綺麗な少年に声を掛けられた。 「こんにちは」 そこに居たのは……、青木潤だった……。

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