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あれからどのくらい時間が経ったのだろう……、俺はずっとベンチに座っていた。 潤が静月と付き合いたいと言った時から、俺の胸に大きな空洞が開いたようだった。 忘れるつもりだったのに、別れられずにズルズル身体の関係を続けていたが、静月の恋人であろう潤から、改めて『付き合いたい』と言い渡された言葉は、まるで死刑宣告のように俺の頭にずしりと響いた。 今まで相手に不自由したこと無かった俺が、こんなにも誰を思って焦がれるようなことがあっただろうか……。 でも終わりにしなければいけない……潤の為にも、そして自分自身の為にも……。 気が付くと空は陰り、マナーにしてあったスマホから着信を知らせる点滅が夕闇で瞬いていて、履歴を見ると天使ちゃん達に交ざって、静月からの通知が何度もあった。 今更なんだよ……、何日も連絡くれなかったくせに、今頃になって気まぐれにも程がある。 本当に酷い奴だ、もう一生関わらないからな。 俺はそう決意して重い腰を上げると、公園から出て駅へと向かう歩道を歩いていた。 すると、いきなり横から誰かに声を掛けられた。 顔を上げると、そこには白衣をブレザーに着替えて、男前度が上がった長瀬が居た。 いや、なんて言うか夜の街で会うピンク色のシャツを着た長瀬は……、そう……ホストの如くチャラいんだけど? 「河野、何だよ、そんなシケた暗い顔して大丈夫か?」 「何でもねーよ」 「泣きそうじゃないか」 「うっせーっな!」 俺は長瀬に一瞥をくれて立ち去ろうとしたら腕を捕まれた。 「まーまー、そう言わず飯奢るから付き合えよ、俺残業だったんで腹減ってんだよ」 「食いたくねーし!」 と、俺が言うのも聞かずに、ズルズルと引っ張られて行った所は、案の定光太郎さんの店だった。 独り身の長瀬が仕事帰りに食事をしながら一杯引っかけて帰る店で、ここで何度か会ったこともあった。 一階がレストランとラウンジが一緒になったようなおしゃれな店で、地下が若者の集まるクラブになっていたので、俺らは年齢を偽りよく遊びに来ていた……母親には内緒で……。 でも光太郎さんに見つかったら追い出されるので、仲のいい店長のコネで裏口から入れてもらったりしている。 「あれ?珍しいわね、二人で来るとは」 白いシャツに黒いエプロンを着けた光太郎さんが、カウンターに座った俺らを交互に見やりながら微笑んで言った。 客のカクテルを作っている動作が滑らかでかっこいい。 こんなことしなくても椅子に座ってるだけで金が入って来るのにと思うと、じっとしていられない人なんだなと思う。 「そこで会ってさ、暗い顔して歩いてたからひっ捕まえてきた、なんか食わせてやってよ」 「おや、じゃあ何か食べる?」 光太郎さんは母親と違って何時も深く問いたださない。 優しく微笑みながら俺の返答を待っている。 ほぼ父親の存在皆無の俺は、光太郎さんを自分の父親に重ねて、男親ってこういう感じなのだろうかとふと考え、彼の息子を思い浮かべるが、あいつはキラキラし過ぎて、悩みなど無さそうだからいい関係なんだろうなと思う。 異国の父があまりに遠すぎて、記憶の中から薄れてゆくのを思うとちょっと羨ましい。 子供の頃はどうして光太郎さんが俺の父親じゃないんだろうと、真剣に考えたものだ。 「じゃあ、ビール!」 「バカ、教師の前で何言っんだ、高校生が」 「えー、長瀬教師だったっけ?保健室で不順異性交流してる奴が?免停もんだろーが」 「え?!な、なによそれ?」 光太郎さんが驚きと、興味交じりの顔で尋ねた。 「この人さぁ、保健室で俺が横のベッドで寝てんのに、横でエッチし始めるんだぜ?おかしいんじゃね?」 「えーっ、何よそれ、あんまりじゃない」 光太郎さんが驚いている。 「あれは盛り上がってしまってだな」 「なによそれ香ちゃん、保健室とかマズイでしょ!」 光太郎さんは呆れたような顔して長瀬を見ていたが、いやいや保健室じゃなくても学校でとかマズイだろ。

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