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「じゃあ……俺は……、俺と長瀬は……何でも無かった?」 「そうだね」 静月はベッドから足を降ろしながら、俺を見て穏やかにそう言った。 ほっ! て、違う違う、安心してる場合じゃないだろ! そのせいで腰が立たないくらいこれでもかって程ヤラれてさ、起き上がれないってんだよ! 「ちょ……、まて!まて!待ちやがれ!」 「?」 クソ腹立つほど綺麗な顔で、怠そうに俺を見る恍けた表情にイライラする。 俺が長瀬と何かあった風に匂わせて散々抱き倒しておきながら、今更何も無かっただと平気で言う。 「てっめぇ……!ふざけんな!嘘つきやがって!」 「心外だ、嘘はついてない」 そう言って、ジロリと俺を見た。 「俺と長瀬は、何も……何も無かったんだろ?」 「風呂は入ったようだよ、裸でね」 ぐ……、そこ協調するな! 記憶に無いわ……、あったとしても脳内削除するけど……。 長瀬とまっ裸で風呂とか……ないわ~。 「セックスは無かったと長瀬は言ってたようだけど、瑛斗曰くそこは信じてもいいらしい、彼奴の感は鋭いからね」 「ほっんと、クソ野郎だなおまえ!俺が後悔するように仕向けて、どんだけショックだったか!」 長瀬との裸風呂は削除したからもう怖いもの無しで、ここは反撃に出るしか無いだろ! 俺は怒りながら枕を掴むと静月の頭めがけて振り回した。 しかし、運動神経の良い静月に枕を素早く取り上げられ、それを遠くに放り投げたと思ったら、一瞬にして俺の首に手を回し、押さえつけながらベッドへ仰向けに押し倒された。 ミスった! 「うぐっ!!!」 きつく喉を抑え込まれて、言葉を出すことさえできない俺を驚かせたのは、さっきまでの優しい雰囲気はどこかへ吹っ飛んでしまった、険しい顔した静月鋭い瞳だった。 「どっちがクソ野郎かな?」 へ……? 「長瀬と……風呂入った……こと?」 「それもあるが、でも違う」 他にまだ何かあるんだろうか? 俺のクソ仕様……。 ぎゅうっと、首に回された指がきつくなる。 ぐ……っ、反論しようにも何のことかさっぱりわからない。 しかも、かなり怒ってる表情の静月は俺を睨みつけていた。 「なん……だよ……?」 「寝言で来栖の名前を呼んだそうだ」 「え?」 「俺ではなく彼奴の名前を……」 えー、ナイナイ……将生の名前を呼ぶなんて……、と思ってたけど、静月が俺を冷めた瞳で見下ろしているから本当なのかこれ……。 マジ? 「どっかで食い物とか食べてる夢でも……」 言いかけたところで、更に指が食い込んできた。 どうやら冗談が通じないらしい。 もし本当に俺が将生の名を呼んだとしたら……、まあ長年友やってるから寝言でうっかり名前を呼ぶとか不思議でもなんでもないだろ? どっちにしろそんなに怒ってここで問題になる話? 「葵は彼奴のことが好きなのか?」 そう質問する静月の無表情な顔が、地獄で魔王に会ったかのように怖かった……。

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