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将生のことは好きだけど、恋愛対象じゃないし、友達としては最高の奴さ。
でも、今それを言うのは止めよう、こいつの前ではどういう意味でも『好き』という言葉を使うべきじゃないと、頭の中でビープ音が鳴った。
「友達以上、なにも無いし!」
「じゃあ、どうして寝言に彼奴の名前が出るのかな?」
「そんなの……知るか!」
そうだよ、こっちが聞きたいわ!
「彼奴の事を思いながら、俺とのセックスに溺れてるんじゃないのか?」
ナイフのように鋭いその目は、今俺が何を言っても信じてくれそうにない。
溺れてる……、そうだよなぁ……そうかも知れない。
何度おまえとのエッチを拒否ろうとしても無理だった、それに俺はお前としかこれほどイケない、身体がどうしようもなく震えて溶けそうになる感覚……、それは将生とまったく関係ないのに静月は俺を疑っている。
「図星のようだな……」
「え……、そんなんじゃねーわ!」
どうやら答えが少し遅れたことで勘違いしてしまったようだが、将生のことを頭に思い浮かべてエッチとか、それ萎えるだろ……。
身体も心もお前に夢中だとか、死んでも絶対言う気はないし、エッチの最中に他の誰かの事を考えるとかあるわけないのに、ここまで疑われると軽く怒りが湧いてくる。
「まあ、いいけど」
静月はそう言って、ふっと笑った。
え、笑うとこ?
なん……だと?
いいのかよーーー?
凄い顔して俺に喧嘩吹っ掛けながら、今頃どうでもいいとか?
「ざけんなよ、てめー!」
静月の身体を押し退けようとしたら、手が両頬に移動してきて動かないように固定されると、いきなり唇を奪われた。
「んっっ……ぐっ」
くちゅり……、ちゅ……、唇を抉じ開けられ舌を探し当てられると、ねっとり自分の舌を絡みつけて来る。
ん……ぁ……はぅ……、やめろや!
こんなディープなキスでごまかすんじゃねーよ、頭でそう思っても身体が付いていかず、全身でキスを受け止め唾液が口の端から零れるほどに、どうしようもなくすぐ夢中になってしまう。
「だとしても、俺は葵を彼奴に渡す気は無いよ。少なくとも葵は俺とのセックスに満足してるだろう?それは俺も同じだ」
そうだよ、お前とのエッチは最高だよ、認める。
それを否定した所でバレバレだし、更にお前が己惚れるだけだから黙っていることにした。
「来栖のことを好きでも、俺と寝るってことは、葵もかなりのビッチだよね」
静月は微笑んではいたが、凍てつく瞳は俺を嘲笑っていた。
無理もないか……、寝言で将生の名前を呼んだなんて不思議でならない。
夢でも見てたのだろうか……。
再びゆっくりと下りて来た唇は俺の口の中にあっさり入って来ると、舌を激しく絡めてきたが、やはり俺はそれを拒否できずに、静月の身体に腕を回したい衝動を、必死でこらえる為にシーツをギュッと握り絞めていた。
ヤバイよ……、俺は完全に静月の玩具だ。
あんなことや、こんなこと……、エッチなことをいっぱいされて、静月のいいように扱われて、それでも身体が熱く燃えるほど感じてしまう。
ああ……静月の言う通り、俺は本当にビッチでドMなのかも知れない……。
「俺は葵が誰を好きでも構わないよ、でも葵の身体は俺の物だ。セックスしたくなったら何時でも連絡して」
静月が急に顔を上げたと思ったらそう言った。
そして俺の頬を包み込んでいた手を放して起き上がり、サイドボードのスマホを取って電話を掛け始めた。
なん……だよ、このいきなり突き放された感……。
まあ、何時も最後はこれだ……。
結局は振り出しに戻るんだ……、永遠に続きそうなループかこれ。
俺はため息を吐きながら、すっかり見慣れてしまった天井から垂れ下がっている雫型のガラスが連なる、綺麗なアンティークのシャンデリアを見つめながら泣きそうになった……。
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