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電話の相手は誰なのだろう……、あの静月が笑顔を見せて会話している。
もしかして潤か?
俺とこれほどエッチして、そんな笑顔で会話するのか?
信じられねぇ……。
その時、潤の顔が浮かんで、昨日あんなに頼まれて、きっぱり宣言したのにこんなザマで、すっかりいろいろ萎える。
だいたい誰に対しても本気じゃないだろお前……、その証拠に蝶々のようにヒラヒラと何処かへ飛んでゆく。
潤と付き合ってるのに俺とこんなことできたり……、静月こそ魔性のタラシじゃねーか……、潤とはもう寝たのかな……、ヤッたよな……好きだった相手だと言うし……、さっきのように濃厚な時間を楽しんだんだろうな……、こいつに本気になってしまった自分が悔しい、わかってはいるがこのまま関係を続けても苦しいだけだ……、何だか胸がキリキリ傷む……。
熱に浮かされたさっきまでは、このままでいいとも思ったが、冷静になってみると、潤との約束を思い出し、これからも二人の仲を見せつけられるのなら、今の内に離れなければいけない、少しでも傷が浅い内にと思いつつ、わかっていながらまた今回も後悔する……。
静月の会話は途切れそうになく、その間に俺はベッドから出て浴室に向かおうとしたが、途中テーブルにプレスされた制服が見えてそれも持って行った。
あんなに抱き合ったのに、身体は満たされても心に大きな穴が空いたように虚しさが襲う。
シャワーの下で、昔映画で見た雨が全てを忘れさせてくれるシーンを思い出し、静月のことを知る前の自分に戻り、このまま何もかも記憶から消去させてくれないかなとさえ思ってしまった。
浴室から出ても静月は会話していた。
帰る準備ができて俺が鞄を手にした時、始めて静月が顔を上げて俺を見た。
受話器の向こうでは話が続いているようだったが、俺はそれを無視して言った。
「静月、もう俺はお前とこんなことしない、二度と話しかけるなよ、今日が最後だと思え」
怒りが混じったような顔で俺を見ていた静月が、スマホをベッドへ投げつけこっちにやって来た。
そして俺の肩を掴んで壁に張り付かせる。
デジャブかこれ……。
「ねぇ、何度言ったらわかるの?こんだけ愛し合って二度と話しかけるなとか、酷いよね葵は」
どっちがだよ、そして顔が近い……。
「葵、俺のこと好きでしょ?」
「いんや、嫌い!マジで大っ嫌いだし!」
そう言った途端、静月の舌が俺の唇を割って口内に侵入してきた。
拒否すればできた。
だけど俺はそうしなかった、これが最後だと決心していたからだ。
静月の舌はまるでペニスのように俺の口内を欲で満たす、そして弄られて唾液で潤った舌を、お互い夢中で貪り合い舐め合う、俺は思わず静月の腕を掴まないと崩れ落ちそうな快楽に飲み込まれそうになって、頭がくらくらしていた。
「葵……、ベッドへ行こう……」
耳元で囁くな、身体がゾワゾワするじゃねーか。
「無理!」
言葉に反して足がガクガクしていた、俺らの快楽は止まることを知らないようだ……、良いのか悪いのか本当に身体の相性だけは抜群だ。
だから余計悲しい。
「もう帰らないと……心配する」
「そうだね、じゃあ送らせるよ」
「いや、いい」
「わかった」
あっさりそう言った静月だったが、離すどころか反対にきつく抱きしめられた。
「好きだよ葵」
俺も……、そう心で呟いた。
「放せよ……」
「嫌だと言ったら?」
「しつこいなおまえ」
「どうして葵は俺じゃダメなの?」
「え?」
「どう考えても葵は俺のこと好きなのに」
「ちげーわ!だいたいおまえには潤がいるだろ!」
わ……、ムカついてつい名前が出てしまった!
これじゃまるで嫉妬してるみたいじゃねーか!
いや……してるよな……。
「え……」
「え?って!」
静月は不審そうな顔して俺を見ている。
「どうして?」
「どうしてって……、おまえ等付き合ってるんだろう?」
静月は驚いたような顔している。
なんで?
そんなに驚くことか?
「だからか……」
「何がだよ」
静月は次の瞬間、大笑いした。
「なん……だよ……」
俺が真剣に悩んでるというのに、それは無いだろう。
俺は腹が立って、静月の手を振りほどいてドアに向かおうとしたけど、やっぱ身体能力の高い静月にあっさり捕まってしまった。
「離せ!」
「バカだな、俺は誰とも付き合ってないよ」
「嘘つきやがれ……」
と、言いかけたところで、ドアにノックの音がして後の言葉を飲み込んだ。
『坊ちゃま、書斎の方にお電話が入っておりますが?』
「今行く」
坊ちゃまはドア越しに返事をすると、俺に向き直って軽くキスをした。
その顔は可笑しそうに笑っている……やっぱりムカツク。
「とにかく、一度ちゃんと話し合わないとな」
「待てよ……」
今度は反対に俺が出て行こうとする静月の腕を掴んだ。
すると振り返り、その両手で俺の頬を挟むと唇を割って舌を入れて来た。
俺の舌と絡め合い、吸い合いながら再び口内を激しく嘗め尽くされる。
「名残惜しいけど本当にもう行かないと……、ごめん」
「……」
マジ急いでいるようなのでそれ以上何も言えなかった。
『誰とも付き合ってない』ってどういう意味だよ、潤は俺にしっかり付き合ってると言った。
なのにおまえはそれを否定するのか?
それとも潤とのことさえ遊びの一環なのだろうか……、おまえが余計に分からなくなった。
酷い奴なのか、良い奴なのか判断できない。
優しい笑みを浮かべながら、ドアの前で立ち尽くす俺の手を取り顔を覗き込んでくる。
そして俺の動揺を読み取ったかのように、肩に腕を回して首筋にわざと音をたててキスマークをつけた。
「俺が葵の所有者だという証拠」
「ちげーわ!」
何もかもこの男のペースなのが俺は気に入らなかった。
結局、本当なのかどうかわからず、それにいちいち振り回される自分が嫌だったが、だけど二人で過ごしたこの濃厚な18時間を消したいかというと、ぶっちゃけそうしたくない自分がいるから困る。
俺はとことんこいつに弱いらしい……。
俺が何を言おうが、こいつにアッパーパンチを食らわせようとしたとしても、それを素早く制しながら、今のように極上の笑顔を俺に向けるだろう静月が憎たらしい。
そして絡めた指先は、俺のざわつく心を落ち着かせるように力強くて、簡単に解けそうに無かった。
「またね葵」
そうして、二人の背後でドアが閉まった。
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