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「葵……?」 心配した将生が俺の顔を覗き込もうとしたが、俺は俯いたまま顔を上げなかった。 俺を痛めつける一番の方法をわかっていて、やってるだろう静月の『おまえのことなんかどうでもいいんだよ?』的な、冷たいリアクションに一気にテンション下げられる。 そして、ほんと悔しいが静月の思うままに俺の心はチクチクする。 「葵、大丈夫か?」 将生の心配した優しい声が頭上から降って来る。 「うん、大丈夫。……授業始まるぜ、行こう……」 「無理すんな……、ここで休んで行こう」 俯いたまま、じっと見ていたコンクリートの地面に、雨の降り始めのような水の粒がひとつ染みを作った。 それはふたつ、みっつと増えていくが……、だんだん俺の目は涙で霞んで見えなくなっていった。 「ごめん……葵……」 「なんでお前が謝るんだよ……」 「俺が葵のことあきらめ切れなくて、しつこいくらい好きだって言って……お前を迷わせて、結局こんなことになって、俺の大好きな葵が傷つくんだ……」 「やめろや!おまえは何も悪くない、俺はおまえのこと好きだし!」 将生は深いため息を吐いた。 「じゃあ、なんで泣いてるんだよ……」 「泣いてなんか……」 目を上げないまま否定しようとした、俺の頬を両手で挟んで上向きにした将生の方こそ、今にも泣きそうな顔に精一杯無理矢理笑顔を張り付けていて、俺はまたこいつを傷つけてしまったのかと思うと胸が痛くなった。 俺、しっかりしねーとな……。 「……ねーわ!」 バツが悪くて俺は目をゴシゴシ擦った。 「ほんと、素直じゃねーの」 将生は強がる俺の頭を、ガキをあやすようにポンポンと叩いた。 「今度はどんな喧嘩したのか知れないけど、おまえはホントあいつの事大好きなんだな」 「そんなことねーよ!」 「無理すんなって、葵が誰かの為に泣くなんて初めてじゃないか、そんなにもあいつが好きで苦しいんだろ?だから俺で手を打とうとしてるのは分かるよ、俺はそれでもいいけど葵はきっと後悔しそうで心配だ」 痛い……、そうだよわかってる……、図星過ぎて恥ずかしい。 「葵の泣き顔は見たくないし何時も笑っていて欲しい、心の底からね……、でも俺の元に来てくれたらあいつの事なんか必ず忘れさせてやるよ」 将生は俺を見て少し照れ臭そうに笑った。 こいつ、ほんとにいい奴だなと思う。 「俺の側で傷を癒しながら何時かあいつのことを忘れられて、これから先もずっと一緒にいられたらどんなにいいかなって思うよ。彼奴から大好きな葵を奪うひとつの手段に便乗してることに、後ろめたさはあるけど、それよりも重大なのは俺は俺の武器を使って葵を喜ばせる自信があるってこと」 「武器?」 「そうさ、俺のマグナムチンコ!」 「ばっ……、ばっか、おまえ!」 ニッと白い歯を見せて、人懐こそうに笑う顔が優しくて泣けてくる。 「そこ大事だろ!」 「いや……おまえ、なに言ってんだ?」 真っ昼間、こんなとこで堂々と何言ってやがる。 「お互い心も身体も大好きになれて、一緒にいられるって素晴らしいことだろう?それにはチンコ大事!」 チンコ、チンコ言うな! わかるさ、静月にこれでもかとファックされて、意識無くすほどぶっ飛んで目覚めた朝、愛を感じられたらもっと最高だと思えるのに、あいつはサラっとベッドを抜け出して行く……、あいつとエッチしたい奴は山ほどいるから、そんなのは贅沢な不満だってわかっているけど、寂しいと思う自分がいる。 「俺わかんなくなっちゃったんだよ……、俺があいつを好きな感情は恋愛ではないんじゃないのかって言われて……、男とヤッちゃって思考回路爆発しちゃってるから、感情どうのこうの言われてもよくわかんねーんだ……」 「おまえもだけど、彼奴もほんとバカだな!それもわかんないのかよ!」 「だって、男を好きになるとか……有り得ないだろ!」 「俺は葵のこと好きだよ」 急に真顔になった将生が、俺を真っ直ぐ見てそう言った。 「あ……、ごめん……将生のことじゃなくて、俺は……その……そんなこと考えたこともないくらい女子とチャラってたし、この前静月にそう言われて返事ができなかった……」 「あのな、女でも男でも、好きとか嫌いとか同じなんだよ!この先も、一緒に居たいか居たくないかだろ?」 「俺、お前と一緒に居たいけど?」 「そんなこと言うんじゃねー!違うだろ、心臓がドキドキして暖かい気持になるのは、あいつと居る時だろうよ」 将生は真剣な顔して言葉を吐き捨てた。 「心臓がドキドキしなくちゃいけないのかよ、俺はお前と居てすげぇ和むんだけど?」 「和むとかジジイみたいなこと言ってんじゃねーよ、それはな……、本気で好きじゃないからだよ、あいつから逃げんな!」 「逃げるとか!ねーわ!」 「いや葵は逃げてる、静月とマジに向き合う度胸が無いんだろ?あいつと居ると苦しいから俺に逃げてるだけだ」 何だよ、さっきまでは自分の元に来いとか言ってたくせに。 「ちげーわ!お前と居ると楽しいし、おまえのこと好きだし!」 「ふざけんな、泣きべそかきながら言うんじゃねーよ!お前が本気で誰を好きだとか、顔見りゃわかるわ。まあそれでもいいって思ってたけど、やっぱ切ねーわ!」 「ごめんな、将生……」 目に涙をいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうな将生が可哀そうになって、俺は前から腕を回してがばっと抱きしめた。 「抱き着く相手が違うだろーが!」 「いや、今はマジでおまえを抱きしめたい!将生、ほんとお前良い奴だよ、頬にちゅーしたいくらいだが、それは我慢してるんだぞ!」 「く~~~っ、ふざけんなよお前!俺の指がどんだけおまえを抱き返したいかわかってねーだろ!」 「まあ、どこで誰が見てるかわかんないし、ホモ認定されたくなければ我慢しとけ、チンコも勃たせるな!」 「おまえは悪魔かーっ!」 どこかで聞いたセリフを耳元で受けながら、今だけは許せ将生よ……、そう思いながら俺は更に強く抱きしめた。

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