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第7話
「う…ん…」
豪語するほどの事はあって、静月のキスは媚薬のように頭をクラクラさせた…。
一瞬、俺の頭を押さえていた静月の手が緩み、唇が離れた…。
静月は欲を含んだような熱く微睡んだ瞳を俺に寄越す。
何だよ…。
過去の経験に置いてそんな瞳を何度か見た事がある…。
そう…、身体を求め欲情している時の顔…。
俺が此奴にそんな表情をさせたのかと思うと、悪い気はしない…。
この男、本当に綺麗な顔している。
綺麗な目を縁取る長い睫毛…、すっと高く整った鼻筋、何よりも俺の目線を釘付けにする形の良い唇が、俺を誘っているかのように唾液を受けて艶めいている。
なんてエロいんだろう…この唇…。
そうしているうちに再び静月の唇が落ちて来た。
今度はゆっくり優しく重なると、自然に迎え入れてしまった静月の舌に俺の口内が弄られる。
舌が絡まったり、吸い上げられた時には気持ち良さに思わず声が出た…。
「ん…ぁ…」
食まれた唇が腫れるような感覚に熱を持つ…。
そう…、俺はいつの間にか静月のキスを受け留め、同じように自ら舌を差し出し絡めた…、それは酷く甘美で相手が男だという事さえ忘れて夢中で答えていた。
チュ…、ジュル…、静かな室内に水音が響き渡る…。
俺の肩甲骨に添えられた静月の掌から、俺の身体に熱が伝わり欲を煽り続けていた。
しかしその時、俺の下半身が反応したのを感じて、俺は我に返った。
ハッ!
何感じてんだ俺!!!
咄嗟に静月を突き飛ばした。
静月も少々意表を突かれたのか、後ろによろめいて俺の手を離したので、その隙に鞄を持って部屋を出た。
部屋を出た所にエレベーターはあったが、その横に階段を見つけた俺は走り出した。
速く、速く…、ここから逃げ出したい…。
ぐるぐる回ってようやくたどり着いた一階には、先ほどの執事がいて『夕食は食べて行かれないのですか?』と尋ねて来たが、どうやら執事の目線はいつの間にか後ろにやって来ていた、静月に向けられたものだったようで「用事があるんだって」と静月がシラッと答えた。
「そうでしたか」
そもそも誘われて無いんだけど…?
静月は俺の顔を見て可笑しそうに笑っていた。
何だか悔しい…、静月のキスに反応し始めた息子が恨めしい。
俺は赤いだろう自分の顔を静月に見られたく無かったのでそっぽを向いた。
「また明日、葵」
すると背後から、落ち着いた声で静月がそう言った。
「…じゃあ、ありがとう…」
静月の笑みを含んだような口調が腹立たしかったが、勉強はきっちり教えてくれたわけで、少しだけ振り向いて礼を言った。
「どう致しまして」
静月の少し皮肉ったような視線を躱して俺は外へ出た。
そして駅まで猛ダッシュで辿りつくと、人も疎らな駅のホームで立ち尽くすのだった…。
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