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別に酔ってるわけでは無かったが、外に出て風に当たると気持ち良かった。 無理矢理テンション上げたものだから、一人になるとどっと疲れが出た。 タクシーを拾おうとしてガードレールに腰かけて待っていたら、知らない連中に後ろから声掛けられた。 「なー、兄ちゃんちょっとそこまで顔かしてくんない?」 相手は3人いてその中のリーダーらしき、歳は同じか少し上かも知れないチンピラ風の目つきの悪い男が話しかけて来た。 馴れ馴れしいし、揃ってニヤニヤしながら俺を見ている。 あーあ……、面倒な予感しかないんだけど? 「俺、帰るとこだし、また今度にしてくれる?」 「なんだと?話があんだよ~」 その中のひとりが口の端を歪めて笑いながらそう言い、仲間の二人が近寄って来たと思ったら、俺は両腕を掴まれて薄暗い路地へと、ズルズル引っ張られるようにして奥まで連れて行かれた。 何だよ……、最悪……ここは行き止まりの、リンチには打って付けの場所じゃねーか。 「あんた噂ではイケメンと評判らしいけど、確かにこうやって真近で見てみると綺麗な顔してんなー」 「あ……りがと?」 俺は取り合えず礼を言ってみる。 「調子に乗るんじゃねーよ、あんたとダチがこの界隈荒らしてるって言うじゃねーか」 「荒らすとか、ウケる。どんだけタマちいせーんだよ」 「うるせーわ!」 俺がそう言うと、男のパンチが俺の顔に飛んできた。 ガッ! 「痛って~~~~~~!!!」 不覚にも不意打ちをくらってしまい、目の前に火花が散った。 「痛ってぇわ!!!」 悔しいから二度叫んでみた……。 「そりゃ、殴ったからな、痛いだろうよ」 男は馬鹿にしたようにせせら笑う。 口の端に舌を這わすと鉄の味がした。 切れたじゃねーかよ、クソ腹立つ。 「あームカついた!あんたら俺にこんなことして後悔すんなよ」 「え?俺らが?するわけねーじゃん、イケメンさんよーまさか俺らに勝てるとでも?」 「てめぇら警告してやらぁ、喧嘩売ってんのなら今のうちに止めとけ、痛い目にあいたくないだろ?二発目はねーからな」 「ぶっーはっ!泣きっ面してるくせに強気だねぇ」 男たちは腹を抱えて笑っていた。 マジ怒ったんだけどー。 「なあ、どこの骨折ってもらいたい?腕?腹?」 「ははははは、笑かすなどうやって折るんだよ、甘っちょろい奴が、だいたい喧嘩なんてしたことあんのかよ」 三人はまだゲラゲラ笑っていた。 「なー、俺早く家帰りたいんだけどー?どこ骨折したいか言ってよー、さっさと片づけるからさ」 「なめんなよガキ、じゃあ、これから俺様が喧嘩の仕方ってーのを教えてやるよ!」 次の瞬間、拳が俺の顔を目掛けて再び近づいて来たが、俺はそれをちゃんと捉えていてフイッと避けた。 それを見てハッとしたそいつの顔が可笑しくて、笑ってしまったのが運の尽き? 俺じゃないよ? そいつのだよ? 運。 思いのほか、俺があっさりパンチを躱したものだから、やっきになったのか再び腕を振り上げ殴りかかって来たので、俺は持ち前の身体能力で脇を固めていた男の腕を振り解き、瞬時に足でそいつの腹に蹴りをくらわして、冷たいコンクリの上に突き飛ばしてやった。 あーやべー、喧嘩のスイッチ入っちゃったよ。 「大丈夫、肋骨は骨折してないと思うよ?」 「てめぇ~~~っ!!!」 相手はまだまだ鼻息荒く、腕を振り回して俺を目掛けて突進して来る、その腕を瞬間握り返して、ついでに後ろに捻ったらグキッと嫌な音がした。 「あれれ?勢い余っちゃった?ごめんね、骨折れてたら」 「うわぁぁぁ、痛てててててっっっ……」 そいつは腕を押さえて喚きながら後ろに数歩下がった。 「だーかーらー、警告したじゃん!ちゃんと聞いてないとだめだよ?」 「こいつ……」 「もう止めとけ、早く病院連れてってやんなよ、助骨に続き腕の骨俺てたらしゃれになんないよ?」 「くっそぉ……っ……」 「腕大丈夫っすか?病院行った方が……」 「うっせぇ、黙ってろ!」 そう言って、仲間が支えてくれていた腕を振り払った瞬間、激痛が走ったのかそいつの顔が歪んだ。 「……っ!てぇ~~っ!!」 「せ……先輩……、病院行きましょう……こいつ意外と強いっすよ」 「お前らビビッてんじゃねーよ、彼奴をやっちまえ!」 「ぉ……おおっ!」 先輩に命令された下っ端が二人同時に殴りかかって来た。 あーもう、動き鈍くて見切っちゃってるから俺、殴り掛かって来る拳を瞬時に左右に避けて、低い位置からのアッパーカットがひとりの顎に綺麗に入った。 そいつはよろめいて壁に激突し、もう一人には回し蹴りを見舞うと重なるように倒れ込んだ。 かっけー俺、誰も褒めてくれないから自画自賛。 「くっ……っ……」 先輩とやらは起き上がれない後輩を見やってから、歯軋りの音が聞こえそうなほど俺を睨みつけて来た。 言っとくけど、先に手を出したのはお前らだよ? 「言ったじゃん止めとけって、はよ病院へ行けよ」 「おまえ……いい気になるなよ……」 「なってねーし!じゃあな、また遊ぼうぜ」 呆然とそこに突っ立っている奴らを残して、さっさとその場を後にした。 歩くうちに次第に痛くなってきた頬に手を当てると指に血が付いた。 「げっ、あいつらナメやがって俺に手を出すなんて一億万年早えーわ!クソッ痛ってーっ……」 俺は大通りに出て来ると、近くの自販機からペットボトルの水を買い、頬を冷やしながら再びガードレールに腰掛けてタクシーを待つことにした。 0時をとっくに過ぎてる時間だったが、週末ということもあってか車は行き交っていて、明るい空を見上げると丸い満月の光が街を照らしていた。 「まだ腕は落ちてないな……」 なのになぜ……。 静月の家で会った時、あんなにもあっさり言いなりになってしまったんだろう……、どうして抵抗できなかったんだろう。 「バカだな俺って……」 涙がホロリと零れて足元に落ちた。 そしてそれはあっと言う間にコンクリートの中へ消えて行った。

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