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俺が廊下を歩くとざわつく声と共に、人が波のように引いて二手に別れた。 視線が集まっているだろう口元辺りが、意識をしてかピリピリする。 まあ、そうだろうな……、この顔じゃイケメン台無しだけど、天使ちゃん達が心配して声かけてくれる……なので良しとしようか。 ただ、一発でも殴られたことが悔しい。 教室に入ってもみんなの視線が集まったが、それを無視して席に着いたら前に居た将生が俺の顔を見て驚きの声を上げた。 「ど、どうしたんだー?顔に痣ができてるじゃん!」 近寄って来た大河も、あずみも俺の顔を覗き込んで来た。 教室中が騒めいていたので、流石に隣の席の静月も俺を見た……と思う。 こっちを向いたのは目の端に写ったからわかったが、当然だけど俺は視線を合わさなかった。 フン、無視無視。 「どうしたのー?すごい顔になってるよ?」 あずみが心配そうに尋ねて来た。 知ってる、今朝鏡を見てギョッとしたわ。 左の口の辺りが紫の痣になり、唇の瘡蓋を舐めたらヒリッとした。 「ねーっ、何があったの?」 「喧嘩売られちゃってさ」 「え?もしかしてあの夜?俺と別れてからなんかあった?」 大河が思い出したように、焦った顔して聞いて来た。 「あれから帰る途中でチンピラに絡まれたんだよ、でも心配ないよ、ボコってやったから」 「マジかー!」 大河はまさかあれから俺に何があったかなんて思いもよらなかっただろう、今まで何度も一緒に遊びに行ったが、クラブでそんなことは一度も無かったからで、少しばかりショックを隠せない表情をしていた。 「へーき、へーき!」 「すまない、俺が呼び出したせいで……」 「いーんだよ、気にすんな。で、お前はあれから上手くいったのか?」 「まー、そりゃね……」 大河はニヒッと照れ臭そうに笑った。 なるほどね……、いいな、羨ましいぞ。 「大河、葵は今勉強しないと夏休み中補習になるだぞ?わざわざ呼び出すんじゃねーよ、それにのこのこ出掛ける葵も悪い!」 将生が眉間に皺を寄せながら言った。 「ほんとすまねー葵、でもまさかって思うじゃん?俺も居たならもちろん一緒に戦ってたけどさ」 「大丈夫だって、まだ腕は鈍ってねーよ、あんな奴らをボコるのは朝メシ前さ」 「じゃなくて……、今回は相手が弱かっただけで、今度また強い奴とつるんで来るかも知れないじゃん、お前は単純なとこがあって相手の挑発に乗りやすいから、それが心配なんだよ」 将生の言ってることはまっとうで、普通なら笑い飛ばしてるところだが、その目が真剣なほど俺は居心地が悪くなる。 あれから将生は一歩引いて俺に接しているが、俺が意識し過ぎなのかも知れないが、時々視線を感じるのは気のせいだろうか。 「将生の言う通りだよ、ほんと無謀なんだからあんたは、ひとりでウロウロしないこと!だいたい大河に呼び出されたからって、フラフラ遊びに出かける葵もどうかと思うよ!テスト前の大事な時なのに、夏休み無くなってもいいの?」 「はいはい……」 「ちょっとー、聞いてんの?」 「まーまー、あずみ、今回は俺が悪かったんだ、葵を許してやって」 「そうだよ!大河が悪い!」 あずみの怒りは適当な返事を返した俺から、こんな事態になった原因でもある大河に移っていた。 そんなやり取りを見ていた将生だったが、まだ何か言いたそうに顔を顰めていた。 すまねーな相変わらず心配かけて……、俺も夏休みが補習でつぶれるとか有り得ないんで、気を付けるわ……。 それより隣の席からの刺さるような視線の威圧感が半端ないんだけど、かと言って話しかけても来ないから俺も無視してやる。 もう関係ないんだからな、見るんじゃねーよ! そう思いながら俺は心の中で舌打ちした。

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