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午後になっていつものように昼食を済ませた俺はみんなと教室に向かっていた。
だが、廊下の途中でいきなり腕を掴まれた。
振り向くとそこに静月がいた。
うぉ……、いきなりにちょっと驚いた。
「なん……だよ……?」
「借りるよ」
静月は俺を見ちゃいなかった。
俺の回りにいる大河や将生、そしてあずみに向かって淡々とそう言った。
まあ、誰も文句は言わないわな……、なに……この威圧感。
「どーぞどーぞ、ちょいと説教でもしてやってくださいな」
おかんか、あずみ……。
まあ、あっと言う間に俺はズルズルと屋上へと続く階段を引っ張られて行ったわけだが、こいつには体力的にもいろいろ抵抗できないし、したところで強引に持って行かれるので黙っていることにした。
静月に限って言うならば、情けないけど負け犬臭漂う俺。
反発したところでこいつまともに聞いちゃいないし……。
前を行く静月から漂う懐かしい匂いが鼻を擽ると、忘れようとしたあれこれを思い出してちょっと胸がチクチクする。
今更、何の話があるんだよ。
扉が開くと、相変わらず乱暴に後ろから屋上へと押しやられた。
そしてガチャリと、静月は自分の背後でドアにカギを掛け、顔色ひとつ替えずに俺の顔をじっと眺めている。
「どこでやられたんだ?」
俺がムッとしたような顔で睨んでいたら、静月の方が先に口を開いた。
「クラブ」
俺の答えを聞いてちょっとばかり眉間を寄せた。
ほら、機嫌悪くなるから言いたくなかったんだよ……て、でも、もうこいつとは関係ないか……。
「いきなり?」
「そうだけど?」
「どんな奴?」
「知らねーし、いきなり絡まれたんだよ」
「他には……?誰か……居なかったか?」
「なんで?いねーよ」
なんだろうか……、一瞬、考え事をしたような間があった。
「葵、気をつけろよ……」
「余計なお世話だ、お前には関係無いし、ほっとけよ!」
静月の顔がちょっとだけ怒りで強張った。
久しぶりに近くで見る静月は相変わらずのイケメンで、きっと一生忘れられないだろう俺の理想の顔。
それを無駄に使って他の奴の気を惹くのだと思うと、腹立つからフイッと目を逸らした。
「関係ある、大いにあるよ」
そう言って、静月は俺の顎に手をやると、怪我の様子をよく見ようと顔を近付けて来た。
「触る……」
……な!
と、言おうとしたらいきなりキスされた。
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