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くちゅりと音がしたと思ったら、優しく唇を噛まれた。
その一瞬に、俺の身体がざわざわと反応しそうになって、それを止める為に突き飛ばそうとしても、ほら……、日頃から鍛えている静月はビクともしない。
この俺がだ。
顔を逸らしてやっと誘惑を免れるのが精一杯だった。
「やめろったら……」
「嫌?」
「あたりまえじゃねーか!」
「何時から嫌になったの?」
はぁ……?
「もうずっと前からだけど?」
て、話聞いてないだろう、おまえ!
唇を逸らしても、頬や首筋にキスを繰り返して来やがる。
「どうしたら……、葵の頭の中が俺でいっぱいになるんだろう……」
いや……もういっぱいだし、そんなことしてくるからすぐいっぱいになるだろーが!
今もまた追い出す為にすげー努力してんだよ……、だからこんなことすんな。
多分、そんな俺の必死な気持ちを知ってて、静月の手は頬を優しく撫でている。
こいつは悪党だ……本物の大悪党だ。
こうやって再び俺の心に火を点けようとする。
「おまえ絶対頭いかれてるよな?」
「どうして?」
「わかってるくせに、そうやって聞き返してくるとことか、マジタチが悪い」
静月はフッと笑ったかと思ったら、俺の首筋を甘く噛んだ。
肩の辺りがゾワッ震えたが、すり替えるように怒りに変えた。
「ほらな、お前ってほんとムカツク奴だよ」
そして俺は静月の肩に両手を当てると、力を込めて無理矢理遠ざけた。
「葵の頭の中には俺の領域が最低でも10%は残ってて、そしてそれによって葵は俺を完全に拒否できない、だから俺はどんな手を使っても葵の記憶を呼び覚ます」
「ふざけんな!」
「試してみる?」
「しねーよ!」
速攻で拒否ってみたものの、静月の唇が降りて来るのが早かった。
……たく。
強引さは相変わらずで、俺の優柔不断さも同じだったが、今までと違うのはどこか冷めている俺がいた。
こいつはこれからも俺の物にはならないし、俺もこいつの一番には絶対なれない。
そんな諦めの境地で俺はこいつのキスを受け止めた……て、なんで受け止めてんだよ俺!
しっかりしろよ……。
俺たちはいったい何なのだ……、この関係って何だ?
誰か説明をしてくれ……。
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