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「そして俺も葵から離れられないよ……」 静月は、思う存分俺の口内を弄った後、ゆっくり顔を上げて満足そうな微笑みを返しながらそう言った。 クスリを止められない常習者のように、身体の芯まで溶けるような静月のキスは俺の頭の中まで狂わすが、ひとつだけ消せない記憶がある。 それは、こいつは大嘘つきだと言うことだ。 すべて大嘘だ……。 お前は俺をあっさり手放したじゃねーか……、それを言葉にしたところでこいつは自分勝手な理由をつけて再び俺を惑わせに来て、二人の関係はぐるぐる回ってまた振り出しに戻る……。 そんなことをぼんやり考えていたら、静月の手が後ろからシャツの中に忍び込んできた。 背中を撫でる指先は熱く、俺の決心まで溶かしそうになる……、限界だ、これ以上じゃれると理性が効かなくなりそうだ。 「ふざけんなよ、俺らはもう終わってる」 「本当に?」 「てめーがそう言ったんじゃねーか!それに俺もそう決めた」 「そうなの?」 俺の意思などどうとでもなるとでも言いたそうな、軽く小バカにした笑みを顔に張り付けてやがる。 くーっ……、何度繰り返せばいいんだよこの最低野郎! そして、バカな俺……。 そして、最低な二人。 「葵が俺を誘うから……つい……」 「してねーーーわっ!」 静月の指先が唇の瘡蓋にそっと触れた。 「この傷をつけた奴を殺したいよ」 「ふん、心配しなくて結構、きっちり殺(シメ)といたわ」 静月はフッと優しく笑った。 「相手も驚いただろうね、こんな綺麗な顔に華奢な身体した葵が、そんなに腕っぷしが強いなんてさ」 「二、三人だったら楽勝よ」 て、今、何自慢してんだよ俺……。 「その傷を癒してあげるよ、これから俺ん家行こう」 「はぁ~~~~っ?てめーー、この前なんつったよ!『お れ た ち お わ り に し よ う』て、言ったんだぞ!頭おかしいんじゃないのか?」 「大声だすな」 「ふざけんなよ、てめーっ!」 ……おい、全然聞いてないじゃねーか! 俺の首筋に顔を埋めてキスを繰り返している。 「やめい!離せよゲス野郎!」 「俺、葵の匂いフェチかも知れない……」 聞いてんのか、ゴラぁ! 静月は俺の頬に手を当てて、唇が振れる寸前で微笑みながらそう言った。 くっーーっ! マジでやめてくれ! 心がグラつく、そりゃ静月のベッドで朝まで記憶をぶっ飛ばすような、濃厚でトロットロのすげぇエッチをするとか、どんなに気持ちいいだろう……。 ああ……ダメだダメだダメだ! 想像しただけでも息子ちゃんが疼くけど、俺たちに未来は無いのだ。 そして、愛も無い……。

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