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少し前までは、俺も静月のようにその場限りの後腐れ無い相手と遊んでいたから、静月に文句言える立場で無いのは分かっている。 今までの俺だったら、欲を発散する為にこのまま流されてエチ友になっても良かったが、(なんせ、すげぇ気持ちイイえっちだから)でも、それは俺がこいつに対して本気になるまでの話だ。 朝も昼も、そして夜も一緒に居たいと始めて思ったのは静月だったが、そんな思いが一方通行だと思うとしんどい……そう、かなりしんどい。 俺が悶々と静月のことを思って眠れない夜を過ごす間に、こいつが他の誰かとベッドの中でファックしてるかと思うと、吐きそうに苦しい。 こいつとは身体の相性抜群で、このままなら腐れ縁になりそうな予感はプンプンで、例え遠くに行ってしまっても、連絡があればぐだぐだ文句や言い訳をしながらも、ちょっとばかりワクワクしながら会いに行きそうな自分が怖い。 そんな情けない未来の自分は嫌だ。 絶対に嫌だ。 ふと、気付いたらいつの間にか静月の手がベルトに伸びていた……。 「おま……っ、何してんだよ!」 「他に怪我が無いか確認しようと思って……」 「ねーわ!」 そう言ったのに、ベルトをガチャリと外される。 「やめろったら!」 「調べないと」 「そこは関係ねーだろ!」 「隅々まで検査しないとだろ?俺は俺の物が傷つけられるのは我慢できない」 「どの口が言ってんだよ!!!俺はお前の物じゃねーし!しかも物ってなんだよ、荷物じゃねーぞ!それに、だいたいお前は数週間後にはイギリスへ行くんじゃねーか!もう俺にかまうんじゃねーよ!」 その時、静月の動きがピタリと止まった。 そして、なぜかちょっと意外そうな顔をしていた。 「それ誰に聞いた?」 「みんな噂してるわ!」 「ふーん……」 「『ふーん』て!おまえは俺のこと……離さないとか、好きだとか、散々煽っといて、結局イギリスに行くまでの遊びだったんじゃねーか、どんだけ俺を振り回せば気が済むんだよ、マジでほっといてくれ!」 ああやべぇ……、これじゃ遊んで捨てられる惨めな女のセリフじゃねーか。 自分自身が情けなくなってきた。 それに、冷静に考えれば俺だってあまり深く考えずにズルズルと来てしまったから、静月ばかりを責められないかも……。 「葵……、泣くな……」 え……。 そう言われて、気付くと目から溢れ出た涙が頬を伝うのがわかった。 しまった! 意外にも、困惑したような顔の静月が指でそれを拭ってくれた。 すげーぇ失態! 将生の前では何度か泣いたことはあるが、まさか静月の前で泣くとは……。 「泣いてねーし!」 いや、まあどう見ても泣いてるだろうけど認めたくないし! 静月は両手で俺の頬を挟むと、目から流れ落ちる涙をペロリと舐めた。 「俺に慰めさせて……」 長い指先がズボンに忍び込んで来て、俺のケツをさわっと撫でた。 そして、優しく俺の身体を引き寄せ密着させる。 恋しかった静月の体温が俺の身体に伝わってきて、心地良いとか思うくらいに気が緩んでしまうバカな俺……。 ああ……、ダメだ……このままじゃ、また振り出しに戻る。 ほんとうに勘弁してくれ、お前は媚薬のように俺の頭や身体を狂わせて、どんどん深みに ハマらせる。 でも、それじゃダメだめなのだ、俺の未来から悪魔のようなお前を切り離す! なので、俺の決心は固まっている、……はず。 「俺に触るんじゃねーよ!」 そう言って、俺は静月の手首を掴んだ。 「俺に触れていい奴は俺が決める」 静月が驚いたような顔して見ていた。 俺は涙を拭うように反対の腕で目をゴシゴシ拭いた。 「それは、静月……お前じゃない」 みるみる静月の顔色が変わった。 「もう決めたから」 「葵……」 俺は静月の腕の中から抜けだした。 「正直、今でもおまえに触れられたら抵抗できないのは認める。だけど今度こそ……お前みたいな最低な奴、俺から振ってやるよ」 「わかってないな葵は……、俺が本気出したら抵抗できないよ?」 「ほざけ、一生言ってな!」 「事実だろう?」 「アドレスからお前は消した。二度と連絡が取れないようにな、永遠にさよならだ」 静月の顔に始めて動揺が浮かんだ。 ざまーみろ、いつまでも俺がお前に抵抗できないと思ったら間違いだぞ、って、どうせ遠くへ行っちまうくせに。 「葵はそれでいいのか?」 「ああ。もうどうでもいいわ、お前のことなんか。マジでほっといてくれ」 それだけ言うと、無言で突っ立っている静月をその場に残して屋上を後にした。 俺はやっぱ嫌だ……、本気の振りして俺と付き合いながらも、他の誰かと付き合うような奴は死ね。 いつもチャラいと言われる俺だけど、本命がいたら絶対に浮気はしない。 俺は馬鹿かも知れないが、それが礼儀ってもんじゃねーの? もしかしたら静月のイギリス留学は良いタイミングなのかも知れない。 こいつの姿が目に入らなければきっと忘れられる。 うん、きっと……。

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