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183 静月凌駕<SIDE>
「なんで笑ってんの?理解できね~~ぇ、鬼畜かよ!」
その声に振り向くと、給水塔の裏からフラッと啓介が現れたが、その繋がれた指の先には悠人《はると》がいた。
陽の光の下で見る悠人は天使のように綺麗で、啓介がどんな手を使っても手に入れたいと願った相手だった。
「いたのか」
「俺らイイ感じだったのに、お前らの喧嘩で台無しさ」
「悪いな、お楽しみ途中邪魔して」
「お楽しみ中とかじゃないから、学校でそういうことなんて……」
悠人が少し頬を染めながら不機嫌そうにそう言った。
「悠人も年中盛ってる啓介に付き合うのは大変だな」
「凌駕、お前には言われたくないわ、しかも、大事な葵ちゃんを泣かせちゃった上に、マゾくひとりで笑ってんだからな……」
「そりゃあいつを泣かせて胸は痛むけど、涙目で気丈に俺を睨んでくる顔とか、本当にゾクゾクするし、泣き顔なんてマジそそられて、もっと虐めたくなる」
「わかる~!」
啓介が嬉しそうに同意した。
「そんなの変、可哀そうだよ……」
悠人が眉間を寄せて俺たちを交互に睨んだ。
「まあ、凌駕はドン引きクラスのマゾだよな」
「僕に言わせれば、二人ともよく似てると思うよ?」
「どこがだよハルくーん、俺は凌駕みたいに鬼畜では無いぞ?」
「十分、鬼畜でしょ」
「は~~る、もしかして挑発してるのかな?そんでもって俺にここでヤラれたいの?」
そう言って、啓介は悠人の身体を引き寄せて抱きしめようとしたが、スルリと抜けだし啓介の腕から離れた。
「ほんと、最低!そんなことしたいなら誰か別の人探して!」
悠人は啓介を睨んで、マジでプンスカ怒っている。
「まてまて悠人くん!俺が大好きなの知っててそんなこと言うんだ?」
「知らない!」
啓介の怒涛の誘惑をあっさり躱し、こんな風にちゃんと自分の意見を言えるのはこの悠人だけだろう。
外見はカラコン金髪だし、一見チャラくてどうしようも無さそうな啓介だが、中身は男気溢れてるし、人懐こいところもあってかなりモテる。
当然ながら、チヤホヤ言い寄って来る大勢の中から選んだ相手が悠人なのである。
「でもな、マジな話、凌駕だって今のままじゃ辛いんだよ、わかってやれ悠人」
「今、僕が怒ってんのは啓介のこと!悲しい思いしてる可哀そうな河野くんのことを茶化して、ふたりしてどうして笑えるの?好きな子泣かせて楽しいのかな?凌くんもおかしいよ」
啓介と目が合った。
悠人はほんと良い子だ。
お互い口には出さなかったが、啓介を見たら『だろ?』って感じの自慢気な顔をしていた。
仲の良い二人がちょっと羨ましかった。
葵……、今なにを考えている?
俺を死ぬほど憎んでいる?
それとも、記憶から抹殺しようとしているだろうか……、だとしたら、それは俺が一番恐れていることだ。
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