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184 静月凌駕<SIDE>

これで良かったのかと自問自答したくなる。 アドレスから俺の名前を削除とか、今度こそ本気で俺から離れるつもりだろう。 当然ながら俺にも葛藤があり、あの手、この手で側に引き留めてしまったが……、真実を葵に話したところで、あの単純バカは突っ走ってしまうだろうから、どんなに嫌われようが今はこのままでいい。 勿論、本当は側に置いて片時も離れたくはないし、体力が尽きるまでこの腕の中に抱きしめて愛し合えたらどんなにいいだろう。 なのに、俺はその大切な葵を泣かせてしまった。 一番、大事にしたいのに、酷く傷つけている。 だけど……。 「でもな……、実際葵の泣き顔はたまらないんだよ、ベッドでも最高にエロいし……」 「まだ言うか!あははは、わかるけどな」 「最低ーっ!」 悠人が俺を睨んだ。 「最低な奴だよな」 「啓介もだよ!」 「俺も?でもさー、なぜだか好きな子を虐めたくなるんだよね、わかるわー」 「そうさ、葵を前にすると虐め倒したくなる……」 「うんうん、俺だって悠人を虐めたい!」 啓介はそう言いながら、悠人の腰に手を当てようとして気丈にピシリと払われた。 「痛って……、でも今それを言っちゃったら葵ちゃん可哀そうじゃん、別れてすげぇ落ち込んでると思うよ」 「今はしょうがないだろう」 今はね……。 「お前の部屋に閉じ込めておけばいいじゃん、監禁しちゃうとかさ……ああ……、いい響きだねぇ」 そう言って、嬉しそうに悠人を見て微笑んだ。 悠人は啓介に何か言いたそうに口を開いたが、こんな俺達のゲスな会話に呆れ果てたのか、可愛い唇を閉じると少し離れた場所へ行き、座り込んで本を開くと読書を始めた。 時に暴走気味になる啓介が、冷静に自分を見つめてくれ面と向かって怯むことなく意見を言える悠人を、どんな手を使っても側に置きたがったのは、無理も無いように思えた。 「葵はね鳥籠の中で、おとなしくじっとしてる奴じゃないよ」 「だーね、ちょっと街に出たらあの顔だもんな驚いたよ、凌も落ち着かないよなー、でも喧嘩強いんだね葵ちゃん」 啓介は感心したように微笑みながら言った。 「でもこのままじゃ、葵ちゃん危ないなぁ……」 「例の件どうなった?」 「だいたいは目星つけたよ、遅くなってごめんな」 「面倒かけたな啓介」 「いんや、これは俺のやり残した仕事でもあるから」 啓介は急に真面目な顔して言った。 それは数年前の出来事に対して言っていることだとすぐにわかった。 俺も傷ついたし、啓介も悔しい思いをした。 そして誰も幸せにはなれなかった。 「今度こそきっちり方を付けてやるぜ、任せろ」 見た目もチャラくて遊ぶこと以外何も考えてなさそうに見える啓介は、実は後輩にかなり慕われているし、ネットワークも広くて、こんな時滅茶苦茶頼りになる。 「おう」 「俺は嬉しいんだからな凌」 「ん?」 「おまえ今回マジで本気じゃん、こんな凌って見たことないからなぁ。まあ葵ちゃんは可愛いよ、うん、良い子だ」 「そうだよ、知らなかった?」 「知ってたよ」 そう言って、啓介は笑った。 「そうだ、葵ちゃんのこと、あいつに……来栖に頼んどけば?」 「嫌だ」 「即答。でもさぁ葵ちゃんの為だよ……、凌はアドレスからも削除されたんだろ?何かあっても連絡の取りようが無いんだし、万が一の為にもここは大人になりなよ凌……、来栖に頭下げろって!」 俺を見ながら面白がってニヤニヤ笑ってる啓介に腹が立った。 よりによって、なんであいつに頼まないといけないんだ? 俺がこの世で一番嫌いな奴で、葵に手を出しキスした相手だぞ? しかも葵の……、くそっ……。 でも、まあ来栖だったら目を離すことは無さそうだ、いつも良からぬ視線で葵を追ってるからな……。 あいつは葵のストーカーだ。 そんな奴を1秒たりとも側に置きたくないのに、啓介は何を言うんだ。 「どっちにしろ、今は凌よりあいつのことを信頼してると思うよ?それに、あの二人は元々疑いたくなるほど仲良いしな」 真顔でそんなこと言うから、俺は啓介ケツに膝蹴りを食らわした。

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