185 / 213

185 静月凌駕<SIDE>

次の日、俺はたちは休み時間に来栖を呼び出した。 俺”たち”と付けたのは、俺が来栖に頼み事をするなんて、まったく気が進まなかったからで、そんな俺の気持ちを分かっている啓介が、ほぼ強引に事を運んだからであった。 当然ながら性格上まったく悪びれて無い。 「こんなとこまで呼び出しちゃってごめんごめん~」 啓介はいつもの通り軽いノリで、戸惑っている来栖に挨拶をした。 来栖は明らかに思ってもみない人物、つまり俺に呼び出されて不審そうな顔をしていた。 そりゃそうだろう、俺とこいつは葵を巡って敵対してて、お互いの印象はかなり悪い。 「凌ちゃんから、たってのお願いがあるってさー」 「え……?」 来栖が更に不信感が募ったような曇った顔で俺を見た。 啓介……、こいつに対して『お願い』とか言うな、こいつに借りとか作りたくない。 まあでも今はそんなこと言ってらんないな、葵の為だし……。 「実は、来栖に葵のことを見張って、そして守って欲しいんだ」 「なんで俺が?お前が見張ればいいじゃん」 むくれたような顔で俺を睨みつけた。 「それができたら、お前に頼まないよ来栖」 「どういうことだよ……、お前ら付き合ってるんだろ?葵のこと……、大事にしろよ……」 「付き合ってはない」 「え……、何言ってんだよ!」 「まーまー来栖、熱くなるな」 雲行き怪しい俺らの仲裁に啓介が入って来た。 「意味わかんね……葵はおまえのこと……、ちくしょう!なんだよ、お前らどうなってんだ?」 「そこはさぁ……いろいろあってぇー、こいつら好き合ってても難しい問題があってね……」 啓介が苦し紛れに言葉を繋ぐ。 「マジ意味不明!おまえ葵のこと振り回すんじゃねーよ!」 「来栖、俺は本気だよ、今はわけあって付き合うとかの関係じゃないけど……」 「じゃあ、なんで俺に守れとか言うんだよ、お前が側にいたらいいじゃないか!」 「そりゃそうだな、ごもっとも」 啓介が頷く。 おい、コラどっちの見方だ。 「できるものなら首輪をつけて部屋に閉じ込めておきたいよ、でも今はそれもできないし時間もない……」 「さっぱりわかんねぇぞ、なに言ってんだクソ野郎!」 「デスヨネー」と、啓介……。 「とにかく、今は葵の側にいてあげられないんだ。来栖、お前なら葵をいつも大事に思っていてくれるから頼んでいる」 「なんだよ……葵に何かあるのか?見張れとか守れとか……、もしかして昨日のあれか?」 「うんうん!葵ちゃん無鉄砲そうだからね」 いや違うだろう啓介、来栖にはもっと危機感持って来栖に守って貰わないと困る。 「このままじゃ葵が危険なんだ……」 俺の言葉に来栖の顔色が変わった。 「このままって……、まだなんかあるのか?言えよ!」 来栖が俺の胸倉を掴んだが、逃げようと思えばできたのにしなかった。 そこには口に出しては言えない、自分のせいで葵が危険に晒されているという、来栖の想像よりもっと重大な後ろめたい事情があるからだ。

ともだちにシェアしよう!