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187 来栖将生<SIDE>

放課後、真田光一と補習が終わった葵を、俺は玄関先で待っていた。 ぎりぎりまで部活してたんで、間に合ったことにホッと胸を撫で下ろす。 目を離したら葵のことだから、懲りずにフラフラどこかえ遊びに行きそうだからだ、という分けで、俺は静月の言いつけ通り見守りをすることにした。 静月は腹立つけど葵の安全には変えられない、あの綺麗な顔にこれ以上痣を作りたくないし、それを見たくもない。 暫くすると、教室から葵が出て来た。 「あれ?どうしたん?部活は?」 俺を見て少し驚いた顔してそう言った。 「今終わったとこ、帰ろうぜーっ」 「珍しいな、部活終わるの早くね?」 「まあな」 俺がそう言って、後ろめたさにふっと目を逸らしたのでピンときたらしい。 「ああ、これか」 葵がまだ痣の残る顔を指差した。 「一人にしとくと危なっかしくてしょうがない」 「大丈夫だってー、また来ても殴り返してやるさー」 「ばっか、やられたら人数増やして倍返しにまたやって来るぞ、一人じゃ危ない」 「おまえ、ビビリ過ぎー、来やしないよ、なぁ、これからなんか食って帰る?腹減ったぜ」 呑気に笑ってやがる、ほんと危機感無いよなこいつ。 「だーめ!何言ってんだよ!真っ直ぐ帰るんだ!玄関着くまで俺付いてくからな」 「何だよーっ、つまんねー奴」 俺たちは電車で揺られながら葵の家へと向かった。 とくに何を喋るわけでもないが、この時間が和むようでいてなぜか少し悲しかった。 俺が大好きな葵の心は、あのいけ好かない静月のことでいっぱいだ。 どうしてこんなことになってしまったんだろう……、できることならちょっと前、まだチャラくて女子のことしか頭になかった頃の葵に戻して欲しい。 そしたら俺はこんなに嫉妬渦巻く最低な心から解放されるだろう。 ごめんな葵……、俺はおまえが静月と上手くいくことを、まだ心の底からは望んでいないようだ……。 心が狭く自分勝手で、そして最低な親友でごめんな。 俺は横に並んで座っている、スマホに夢中の葵をチラリと盗み見した。 何度も見なれた光景なのに、なぜかすごく懐かしく遠い遥か昔のことのように思えた。 悲しいことに時間はもう戻らない……。 俺は宣言通り、本当に葵を玄関まで送り届けた。 そして、近所に怪しい奴がいないか一応確認し、とくに変わったことも無さそうなのでそのまま帰ろうとしたが、でもどうしてもひとこと言っておかなければならないと思い直して振り向いた。 それが例え自分の傷を深めてもだ。 「葵……、あいつ……静月さ……」 静月の名前を出すと、葵の顔色がすぐに変わった。 こんちくしょう、そんな悲しそうな顔は見たくないってのに! 俺も胸がチクチク痛む。 「なんだよ……」 「葵への気持ちは本気だって言ってた」 「え……」 「俺に葵を守ってくれって……頭下げて来たんだよ」 「どういうことだよ……」 「なんか今は事情があるから自分はできないとも言ってた……、なんか理由があるんじゃないかな」 「知らねーし!俺フラれたんだし!ないわ、その話はもう無し、じゃあまたな!」 そう言って、葵が玄関のドアノブを手にした時、俺は急いで扉を押さえて閉まらないようにしたが、葵もムキになって必死で閉じようとしている。 「悔しいから言いたくなかったけどさ、静月は葵とのこと本気だと思う。じゃないと俺に頭なんて下げないさ」 「やめろって、もうあいつのことなんてどうでもいいんだよ!」 当然だが、葵の顔は心底傷ついてるように見えた。 長いこと友をやってるとそのくらい顔つきでわかる。 触れてはいけなかった話題を口に出して後悔しそうになるが、静月が理由もなしに葵を遠ざけてるようにも思えなかったから、少しでも気が楽になればと思い伝えたかったのだ。 「待てってば葵!」 「ボディーガードありがとな、じゃあ!」 葵はちょっと怒った顔をしたまま、強引にドアを閉めた。 なんかスゲー拗れに拗れてんな……、だとしても俺には葵の送り迎えくらいしか出来そうにないのが悔しい。 キスをしてもフェラをしても、葵にとってはすべて遊びでしかないのが悲しかった。 思えば最初から葵は俺の事を運命の相手とは思ってなかったのだ。 結局は葵が弱ってるのにつけ込んで、俺が自分の思いを強引に伝えただけだった。 ごめんな葵……。

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