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暑い、眠い、怠い……で、今日も何時もの如く体育の授業は熱があると言って、体育館の風が通る窓際で壁に凭れて、クラスメイトがバスケをやっているのを見るともなしに見ていた。 なので……、そうだよ。 見たくも無いのについ目が追ってしまうあいつは、何やっても運動神経抜群で、体操着から伸びる筋肉質な身体や、サラサラと揺れる黒い前髪から時々除く真剣な視線は、今でも俺の心をゆらゆら揺らした。 クソ暑い体育館の中、なんでいつもこんなに真面目に体育の授業取り組んでいるんだよバカ。 よそ見しようとしてもついつい見てしまうじゃないか。 そう悶々としながら目線を手元に無理矢理剥がしてスマホいじりを再開しようとしたら、目の前に冷えて水滴が付いたスポーツドリンクが頭上から降りてきた。 「はい、スポーツしてないけどスポーツドリンクあげる」 そう言いながら目の前に立っていたのは、制服を着て涼しい顔して微笑んでいる高梨瑛斗だった。 こいつもよく体育の授業サボるな……。 「さんきゅ……」 瑛斗は俺の横に座り込み、自分のボトルの蓋を空けた。 「凌駕ってカッコいいよね」 「はぁ?」 「『はぁ?』て何?そんな顔して見てたくせに」 ……マジか。 見られてたかと思うと、恥ずかしさに頬が熱くなり、それを紛らわすためにジュースを飲んだ。 「でもまあ誰が見ても見惚れる容姿だし、それに負けないくらい中身も良い男だよ」 そんなこと、もうどうでもいいし……。 「僕が先生に処女奪われて捨てられた時も慰めてくれたしね」 ブッーーッ! 俺はジュースを噴き出した。 「汚ったなーーい!」 「おま……、そんな話いきなりするんじゃねー!」 「まあ先生は開発慣れてたから、そんなに痛いことは無かったし、寧ろ……」 「聞きたくねーわ!」 「でも少しパニクッちゃって凌駕んとこに駆け込んじゃったんだよね、そしたらすごく優しく慰めてくれたんだよ、僕の様子がおかしかったから乱暴されちゃったんじゃないかと思ったらしくて、身体の隅々まで点検されちゃった」 慰めたってどういうことだよ……、しかも隅々まで点検て……。 「僕ら幼いころから一緒にお風呂入ってたから裸見られても全然平気、凌駕の恋話も全部知ってるし、僕の恋愛も隠し事なく全部話してる仲なんだ。だから先生との初めて時も、クリーム塗ってくれてパニクッてた僕を抱きしめて眠らせてくれたんだ。ほんと優しいよ」 何だろう……この胸の中でぐるぐる回る黒い渦は……、しかもめちゃ息苦しい……。 「その後、僕は先生に捨てられるんだけど、自暴自棄になってた僕を支えてくれたのも、優しく心から抱きしめてくれたのも凌駕だったんだ」 それはどういう意味デスカ? 友情? 恋愛? 「おまえは……凌駕のこと……」 「もちろん大好きだし、愛し……」 言いかけた瑛斗が見上げる先に、こちらに向かって歩いてくる静月がいた。 汗で髪の毛が額にかかっていたが、それでも涼し気に見えるのはイケメンのせいだろう。 いろいろ許されるのはこいつの特権だろうな。 バスケの試合がハーフタイムに入り、それぞれコートから離れて外へ出て行く者もいた。 静月はこちらに向かって来たが、俺には一度も目線を合わすことなく瑛斗の横へ座った。 まあ……いいけど。 「お疲れ様、凌駕の分もあるよ。はい、これ飲んで」 「ありがとう」 静月は瑛斗から差し出されたスポーツドリンクを受け取りながら礼を言った。 「瑛斗、熱大丈夫か?続くようなら受診した方がいいよ、なんなら親父に言っておこうか?」 「いいよいいよ、ただの夏風邪だからすぐに治るよ。こんなことで忙しい凌駕のお父さんを煩わせたくないよ」 すると、静月の手が瑛斗の首に伸びて、頭を自分の方へ引き寄せると、額を瑛斗の顔にくっつけた。 一瞬、キスするのかと思って、息が止まりそうになった。 熱を測ってるんだろうけど……、いやちょっと待て唇触れるほど近いし……、見てはいけない光景のような気がして、俺は目を逸らした。 心臓がバクバク音を立て始めた、と同時にシクシク痛んだ。 そんな関係じゃないと知ってても、目の前の光景は今の俺にはかなりきつい。 病気の瑛斗を心配しているんだろうけど、本音を言えばそんなに近くで見つめ合ったり、手で頬を優しく撫でないで欲しい。 でも、俺にはそれを言う権利は全くないし、心を痛めることさえおかしな話かもしれない。 「ほら、大丈夫でしょ?」 俺の動揺とは反対に、瑛斗は冷静に返事をした。 静月は頷いたが、瑛斗から視線を逸らさず心配そうな顔して見ていた。 「今は大丈夫かも知れないけど、夜が来たら瑛斗は熱出やすいから今晩も泊まってけばいいよ」 「はーい、じゃあまた一緒に寝ようね」 「子供じゃないんだから、そろそろ自分のベッドで寝ろよ」 「一人じゃ寂しいからやだ」 瑛斗は文句いいながらも嬉しそうに笑っているし、静月も軽く微笑んだまま否定はしなかった。 もしかしたら昨日も、一昨日も一緒に寝たのか? さっき瑛斗が言いかけた『もちろん大好きだし、愛し……』の続きは、当然のごとく『愛してる』だよな……。 二人の関係について瑛斗は以前否定してたけど、その仲の良さは普通じゃないからどうしても疑ってしまう。 最初から、二人の間には俺の知らない親密な関係があったんじゃないのかと思えるけど、でも、そもそも遊びを真に受けた俺が悪いのは分かっていたし、まさかこんな風に他人に対して真剣な気持ちを持つとはこれっぽっちも考えて無かったから、どこにこのウサを持っていけばいいのかさえ分からなくなっていた。 瑛斗を見つめる静月の優しそうな目は、俺の事など完全無視で、この場から逃げ出したかったが、それをしたら何だか負けのような気がして、泣きたい気持ちをどこかに追いやって、飲みたくも無いドリンクを、気を紛らわすように飲んでみたが、それは一気に身体を駆け巡り、そして心臓まで到達すると心まで凍らせた。

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