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ほんとマジで泣きそう……。 誰かを好きになるって、こんなに辛いのか? こんな感情初めてなんでいろいろ戸惑ってしまう。 しかも隣でイチャイチャ親密そうな様子を見せられて、振られたばかりの俺にはかなりキツイ。 「僕そろそろ保健室へ行くよ、先生に会いたいし」 急に瑛斗がそう言って、すくっと立ち上がった。 そして俺の反対側に回って来たかと思った次の瞬間、俺の肩をいきなり突くものだから静月の方へ倒されてしまった。 「なんだよ!」 「そんな泣きそうな顔して、凌駕に慰めてもらいなよ」 そしてニコッと笑うと、その場を後にした。 ふざけんなよ、泣かねーし! 舌打ちしながら身体を起こしていたら、ふと手を掴まれた。 ギョッとして見ると、二人の繋がれた手はタオルで被されていたものの、どんな顔してこんなことするのか横に居る静月の顔を見た。 「……」 なんだよ、何考えてんだよこいつ。 「前を見て」 意味がわからなかったけど、取り合えず静月が真っ直ぐ見つめている視線の先を探した。 そしたら体育館の入り口で、こっちに向かって笑顔で手を振る由紀ちゃんがいた。 手を振り返すと更に顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。 可愛いな……。 なんで俺、静月のように本気であの娘を好きになれないんだろう。 美人だし明るくていい娘だ、昔の俺だったら今頃とっくにセク友だったな……。 「あの娘」 「え?」 「宮條由紀」 「ああ……、由紀ちゃんか」 「気を付けて」 「なんで?いい娘だし」 なんか横からすげぇ視線を感じると思い、チラッと隣を見たら静月が意外にも怖い顔して俺を睨んでいた。 「ほんと葵は単純だな」 「性格も可愛いいし、なんでそんなこと言うんだよ」 「見た目に騙されすぎ」 そうだったな認めるよ、お前にはその王子みたいな容姿で散々振り回されたよ。 「ほっとけ、妬いてるように聞こえるぞ」 「うん、妬いてるよ、心配でしょうがない」 もうさ、繰り返される甘い言葉にうんざりしてきた。 あーそうですかと、あっさり聞き流してくだらない話を終わりにするため、俺が手をどけようとしたら更に強くぎゅっと掴まれ離してくれなかった。 「離せよ」 「離さないよ」 タオルの下、親指で俺の手を撫でている。 そして顔を耳元に近付けて来ると、小声で言った。 「ねぇ……、今晩、家来る?」 「!!!」 俺は乱暴に手を引き離し、立ち上がると大声で喚いた。 「ふざけんな!ゲス野郎!」 そう言い捨てると、俺は注目を浴びたざわめく体育館から出て来た。 あいつ笑ってやがった。 ほんとムカツク、はよ俺の前から消えて欲しい。 あいつはひとの心など無視してヤルことしか考えて無いし、俺を見たら挨拶のように軽く遊びに誘う最低な奴だ。 少しの間俺と濃い関係を持っただけで、そういう風に誰かと今まで同じように過ごして来たのだろう。 あいつは何も変わっちゃいないんだ。 なのに俺の世界はガラリと変わってしまった。 あいつが……静月が俺だけのものじゃないと言うのなら、俺は要らない。 どんなに今辛く苦しくても、今の俺はそんな遊びを望んではいない。 今まで通り、広く浅く付き合って遊んでいたら、誰かを傷つけてしまうことを学んでしまった。 すげぇな俺……成長してるじゃん。 冷静になってみると、どなったりしていちいち反応する自分が恥ずかしかった。 軽く受け流せるよう大人になろう。 そして何もかも忘れて一から出直そう、マジでそう思った。

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