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191 高梨瑛斗<SIDE>
体育館を出ようとしたところで、入口にいた例の女子を見つけた。
女友達とキャッキャはしゃぎながら、どうやら中に居る葵と凌駕の方を見て奇声を上げている。
僕は知らんぷりして通り過ぎようかとも思ったが、ふと気になって足を止めると声を掛けた。
「ねーねー、君さぁ、少し前になるのかなぁ、河野君に助けられたんだって?」
「はい!不良に絡まれてたところを助けて下さったんです!」
「ふーん……」
噂は本当だったんだ。
「めちゃくちゃ強くてーっ、あっという間にやっつけて下さって、すごくかっこ良かったですよ!怖かったから本当に感謝してるんです。それ依頼大ファンなんです!」
なるほどね……。
でも、なんか、この娘調子よくない?
可愛いけどさぁ……。
「じゃあさ、葵のファンを自称する君に質問ーっ!」
「はい!」
なんだか目をキラッキラッさせて嬉しそうに僕を見ている。
本気かこれ。
「葵の誕生日はいつ?」
「12月24日です!」
即答だった。
でもまじか、おめでたいなあいつ。
てか、合ってるのかどうか分かんないんだけど……?
知らないし、あいつの誕生日なんか!
「では次ーっ!好きな食べ物は?」
「いちご!」
可愛いのきた。
女子かよ。
「じゃあ、兄弟はいる?」
「それは初歩的な質問ですよ」
彼女は余裕顔で笑った。
「中学生の妹さんと小学生の弟君がいます。ちなみに弟君、将来超有望なイケメン小学生です!」
「まじか!」
思わず声が出た。
葵を超えるイケメンに?
それはチェックしとかないとね!
うーむ……、できるなこいつ、本当にファンかよ……。
「わかった、わかった、僕の負けだね」
「わ~い、由紀勝っちゃったぁ!」
なんか凄く嬉しそうなんで、僕は肩透かしをくらった気がした。
まあ、いいか……。
チラリと体育館の中を見やると……、喧嘩してんのかい!
葵が怒って叫んだと思ったら、外へ出て行くところだった。
あーあ……、あの二人はほんと何時も喧嘩ばかりだなぁ。
凌駕もいちいちちょっかい出さなければいいのに、すぐに葵を怒らせちゃうんだから……、まあ、出さずにはいられないんだろうけどね。
あの二人は運命の相手なのかな……、そんな気がしないでもないけど、残念ながらその赤い糸はぐるぐるに絡んでいるよね……。
とか考え事しながら、ファン女子と別れて歩いていたら、なんだかなぁ……しょぼくれて木陰で座ってる奴を見つけたんだよね。
そう……、来栖将生。
無理もないよね、好きな奴を取られちゃって、そりゃ落ち込むよね……、僕も何度そういう目に遭ったことか……。
気持ちはわかるよ……、でもまあ僕の事はいいや。
「君は何を落ち込んでるんだい?」
「は?」
明らかにド落胆してそうな来栖将生は顔を上げると、うさんくさそうな瞳で僕を見た。
あれ?
来栖将生ってこんな顔だったっけ?
眉間を寄せた不機嫌そうな顔は意外にもかっこ良かった。
僕もチェックが甘くなったものだ……。
「君は何を悩んでるのさ」
「はぁ?ほっとけ!」
来栖将生は呆れたように顔をして、すぐにそっぽを向いた。
まあ、そうだよね、今まで会話もしたことない奴に聞かれたって、『今の僕はフラれて落ち込んでるんだ』とは言わないよね。
なんだか少し同情心が湧いてしまい、つい隣に座り込んでしまった僕、何をしようというのだ。
自分でもわかんなかった。
だけど僕のお口から出た言葉ときたら……。
「あいつ……葵はもう凌駕のものだよ、あの二人の間には入れないからいい加減諦めたら?」
という、更に将生を追い詰めるような残酷な言葉だった。
「言われなくても、とっくに諦めてるさ!」
「じゃあ、どうしてそんなに落ち込んでるのさ、今の君を見る限り諦めて無いように見えるけど?」
「おまえ何しに来たんだよ、煩いな!あっち行けよ」
「君を切りに来た」
「は?」
「思いを断ち切ってあげるよ」
「ほっといてくれ」
本当に嫌そうな顔してるけど、僕はこいつの為に止めを刺してやろうと思った。
「葵は君の事なんか愛してない!」
僕がいきなり大声を上げたものだから、来栖が俺の口を塞ぎに来た。
「おおい!でかいわ声が!」
偶然近くに来た来栖の顔は、すべすべの肌に男らしく鼻筋の通った綺麗な顔をしていた。
へぇ……。
しかも、サッカー選手らしくガタイが良いので僕の身体がすっぽり収まった。
意外にもしっくりきた感触に、身体がふわふわ浮き立つような不思議な思いがした。
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