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192 高梨瑛斗<SIDE>

「そんなこと知ってる……、おまえに言われなくてもな……」 来栖は苦しそうに声を絞るようにそう言った。 「だからー、悩むだけ無駄だよ、次行こうよ次!」 「そんなにあっさり行けるほど軽い恋じゃないんだよ!何年思い続けたと思ってんだ!」 「あいつは幸せだね、こんなに真剣に思ってくれる人がいて」 「葵は俺の全てだったよ……、幼いころから大好きだったんだ。急に思いを断ち切ることなんかできるものか!」 「でも付き合ってたわけじゃないんでしょ?」 「!」 来栖が痛い所を突かれたのか、目を見開いて俺を見た。 「えっちもしてないんでしょ?」 「おま……っ」 急に頬を染めちゃって、可愛いとこあるじゃんこいつ。 「ねー、君は根っからのゲイなの?」 「そうだよ」 「今まで誰かと付き合ったことある?」 「身体の関係ならあるよ、男だからな……」 「言うね、サッカー選手とかモテるだろうね」 「あのさ、そんなことはどうでもいいんだよ、もうあっち行ってくれないか?」 来栖は俺の身体を起こした。 あ……残念。 「冷たいなぁ、ケリをつけてあげて慰めてあげようかと思って来たのに」 「ありがとよ、じゃあな」 来栖が立ち上がったので、僕も立ち上がった。 「葵は君の事なんか愛してないからね!」 その場を去って行く、来栖の後ろ姿に向かって僕はもう一度大声で言い放った。 「うるせー!」 追っかけて来たので、逃げようとしたらあっさり捕まってしまった。 近すぎたな……、僕の運動音痴……。 「おまえいい加減にしろよ?それ、慰めてるとかじゃないから!寧ろ傷つけてるだろ!」 「人から言われると目が覚めるでしょ?もう次行くんだよ?」 「そんなにあっさり行けないってんだろ?しつこい奴だな、もしかしてお前が相手してくれんの?」 「それはダメ、僕には先生がいるから」 「ほんと口先だけだよな、慰めてくれるんじゃないのか。興味があるから近づいて来たのかと思ったよ」 実際のところ、ちょっと興味あったのかな。 落ち込んでいる姿を見て話してみたいと思ってしまったのは事実だけど……。 「ぜんぜん違うーっ、ちょっと興味があっただけ」 「ふーん……」 顔が近いし唇も近い……、やだ……なに僕ドキドキしてんの? 来栖も逃げない……、真っ直ぐ僕を見ていて何を考えているのかわかんないけど、きつく握られた手首を離そうとしてくれなかった。 「痛い……」 「あ……ごめん……」 僕に言われて来栖はハッとしたように手を放そうと緩めたけど、少しだけ指先を絡めたままだった。 何だか胸がドキドキする……、ホントどうしちゃったの僕。 来栖に見つめられるだけで身体の芯が熱くなる……。 まずいよ……だけど……。 「僕に……慰めて欲しいの?」 そんなことを口走っちゃった。 来栖は意外にも少しだけ頬を赤らめて、素直にコクリと頷いた。 身体の関係はあるって言ったから童貞ではないんだろうけど、すごく純情そうに見えるよ、裏切られたり遊びの関係を望んでたりする奴とばかり付き合ってきた僕にはとても新鮮に思えた。 「じゃあ、キスしてもいいよ……」 寧ろこれは僕の懇願かも知れない、そう言わずにはいられなかった。 だって来栖は……なんか……かっこいいよ……。 さらにゆっくりと僕は来栖に身体を寄せた。 すると来栖の腕が俺を抱きしめてきた。 その長い腕で抱かれただけで逞しい裸体が想像できて、降りてきた唇が重なり触覚のような舌に口内を弄られ始めると、身体が熱く痺れてしまった。 ああ……どうしよう、気持ちいいんだけど……。 僕は来栖の背中に手を回し、引き締まった肩甲骨の辺りを撫でた。 くちゅ……ちゅ……。 「だめだ……、止まらなくなりそう……」 来栖がいきなり唇を離すと、苦しそうにそう言った。 「うん……僕もだよ……」 しばらく二人で見つめ合った。 来栖の瞳は欲に満ちて潤んでいる。 そして再びどちらからともなく、唇が重なり激しく口内を弄り合った。 ああ……指先が痺れる……。 「うち……来る?」 「……いい……のか?」 僕はもう我慢できなかった。 来栖とえっちしたい欲求がどんどん膨らみ、止めることなどできなかった。 「後悔して欲しくないけど……」 「しないから」 僕は根拠は無いけど自信を持ってそうはっきりと答え、来栖に向かって微笑んだ。 「だっておまえは先生と……」 「しー」 僕は自分の唇に人差し指を当てた。 「あんな浮気者、気にしないで」 「でも付き合ってるんじゃ……?」 「そう思ってるのは僕だけかもね……、先生に振り回されちゃって僕はもう疲れちゃったよ」 「そうか……可哀そうに……」 「だから本当は慰めてもらいたいのは僕の方かも……」 「俺で……いいのなら……」 あくまでも控えめな態度が好感持てる。 「君じゃないとダメかも……僕そう思う」 僕らの噂、そして先生のイケナイ素行の噂は聞いているのだろう、来栖はやっと微笑んだ。 やっぱイケメンじゃん、僕どうして今まで気が付かなかったんだろう。 身体が熱を帯びている……、もう止まらないよ。 早く、早く、いっぱい慰めて欲しい! 「HR終わったら玄関で待ってて……」 「いいよ」 僕が来栖の手を取ると、ニコリと微笑んでくれた。 どうしよう……、なんだかドキドキする……この僕が……。 ぎゅっと握ると同じくらい強く握り返してくれ、僕の心は跳ね上がった。

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