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今日は土曜日で、補習も無くHRが終わり席を立ったところで、前の席に座っていた将生が振り向いて言った。 「あのさ、葵……今日の帰りさ……一緒に帰れないわ……すまん」 「ああ……いいけど、どした?」 「ちょっと……、急用できちゃってさ、ほんとごめん」 「いいよいいよ、だいたい小学生じゃないんだからさ、これからもういいから」 「うんうん……じゃあ……またな」 そう言って、さっさと教室を後にした。 なんかうわの空っぽいな、様子が変だったけどなんだ? 「じゃあ、俺と帰ろう葵」 いきなり後ろから声を掛けられたが、見なくても分かっていた。 静月だ……。 「てめーは消えろ」 俺は涼しい顔して微笑んでいたイケメンにそう言った。 「酷いな、新しいゲーム機手に入ったから誘ってんのに」 え、マジか……。 「あの?出たばかりで入手困難な?」 「そうだよ、知り合いに頼んで譲ってもらった葵の為に、ゲーム好きだからね」 う……うぉぉぉ! 行きたい! でも、無理! ……でも行きたい……、いや我慢だろうここは……。 くーっ……ぅぅ……。 「取り寄せた甘い苺もあるし、昼食には葵の好きなビーフシチューも作ってるし、勿論、葵には指一本も触れないよ」 当たり前だ! いやいや、そんな甘い言葉に騙される俺ではないぞ、それで何度騙されたことか……。 しかし……、なんだよー、この餌ばら撒き作戦は! 単純な俺の心は一瞬緩いだが、こんなふざけた誘いに乗ってはいけないことは身を持って知っている。 「真っ直ぐ家に帰るし!」 「それはとてもいいことだと思うけど、俺が側にいたら大丈夫だよ」 「大丈夫の意味がわかんね」 「安心だろう?」 「それも、もっとわかんね、一番怪しいだろうが!」 「葵は俺が守るから心配しなくていい」 なんなん? 懲りないなこいつわ……。 「やっぱ、意味わかんね」 「どうして?普通に誘っているだけなのに」 「行くわけないだろ」 「友達として誘ってるんだけど?」 「なんでお前と友達なんだよ」 「だよね。じゃあ、恋人として誘うよ」 「ねーわ!もっとない!」 俺こいつと話してると、めちゃ爆疲れするわ。 ふと静月の肩越し、後ろの廊下で由紀ちゃんがこっちに向かって手を振るのが見えたので、俺も手を振り返した。 そうだ、由紀ちゃんと帰ろう! こいつのことなんか知らね。 「俺、由紀ちゃんと帰るから、じゃあな」 一瞬、静月が驚いたような顔をして、後ろを振り向いた隙に、俺は由紀ちゃんがいる廊下へと向かった。 なんで、静月はいつまでも俺に関わるんだろう。 自分から関係を切ったくせに……。 「由紀ちゃんー、一緒に帰ろうぜ」 「あれ?来栖先輩は?」 「今日は用事があるんだって」 「きゃあ、嬉しいです!先輩と一緒に帰れるなんて!」 俺たちは歩きながら廊下を通り過ぎ、玄関へと出て来た。 そして気が付くと、ずーと前の方を歩いている将生の姿が目に入ったが、横に居るのは瑛斗のようにも見えたが、遠すぎて誰だか確認はできなかった。 まさかね……。 二人に繋がりは無かったはず、まあいいか……将生も俺と毎日一緒じゃ可哀そうだからな、そう思い直して俺と由紀ちゃんは駅に向かった。 「由紀ちゃん、昼飯でもどこかで食って行く?」 「あー、残念!由紀これから友達と約束があるんですー」 すごく残念そうな顔して由紀ちゃんは答えた。 「いいよいいよ、気にしないで」 「先輩……?」 「ん?」 「真っ直ぐ帰ってくださいね」 「みんなして同じこと言うなぁ、俺小学生じゃないんだからさ」 俺は笑った。 「先輩が心配なんです!今はうろうろ遊びに出歩かないで下さいね」 「由紀ちゃんまで」 「だって由紀は先輩の事大好きですから、本当に心配してるんです!」 「ありがとね」 「先輩……」 「ん?」 「もう一度聞きますけど、由紀と付き合ってくれませんか?」 「それは……、ごめんな、今はちょっと無理だわ」 「そうですか……」 由紀ちゃんはマジで悲しそうな顔をして下を向いた。 そんな様子に俺も気分が落ちる、なぜその気持ちに答えてあげられないんだろう、昔のようにヘラヘラ『いいよ』って……。 「しつこく迫ってごめんなさい、気にしないでくださいね」 顔を上げた由紀ちゃんは、目じりに涙を溜めてたけど、顔をくしゃくしゃにして笑顔を作るとそう謝った。 「ごめんな……」 「じゃあ、最後に由紀からひとつ忠告しておきますね」 「なに?」 「夜は絶対出歩かない事、または静月先輩といつも一緒に居て、守ってもらうことです!」 真剣な顔してそう言った。 「なんで静月なんだよ……、あいつはもう関係ないから」 「ほんとに分かってないですね先輩は……」 「どういうこと?」 その時、由紀ちゃんが乗る反対側車線に電車が滑り込んで来て、その風圧が俺のシャツや由紀ちゃんの長い髪の毛を揺らした。 そして扉が開くと由紀ちゃんは乗り込み、ゆっくり振り返ると悲しそうな表情で言った。 「……じゃあ、さよなら」 「……おう、またなー!」 今にもぶわっと泣き出しそうな顔して由紀ちゃんが、ドア付近に立って手を振った。 何だろう……、なんだか何時もと違う様子が気にかかる。 由紀ちゃんを乗せた電車は、勢いよく扉を閉めて走り去り、それが見えなくなるまで俺はぼんやりとホームに突っ立っていた。 何かが変だ……。

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