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第26話

< :静月凌駕 SIDE > 二年になってクラス替えで葵が隣に座った時、間近で見る葵があまりにも綺麗だったので驚いた。 すらりとした華奢な出で立ちは凛として、だけどどこか妖艶さを漂わせて、俺の目を久しぶりに惹きつけた。 こんな奴が学園にいたとは……。 本当は入学式でチラリと見かけたが、その時は綺麗な奴がいるなと思う程度で、すぐにノンケでチャラ男で女を取っ替え引っ替え遊んでるって噂がたった。 教室が離れていることもあって構内で会うことも無く、俺はこの学園に入学したものの、希望を見失って自暴自棄になっていたので、手当たり次第女子を食ってると噂されている正真正銘ノンケな葵よりも、自分に近づいてくる奴と遊んでは別れを繰り返し、それなりに忙しい日々を過ごすうちに、チラリと見かけただけの葵のことはすっかり忘れていた。 成績さえ落とさなければ煩く言わない父親だったので、そこはきっちり抑えていたが、俺も葵同様私生活は真面目だとは言い難く、当然だが悪い噂が流れていたのも知っている。 まあ、大半が事実なので反論もしないが……。 葵とあまり変わらない素行の悪さは認めている……。 だけど、二年に進級して、そんな俺の前に河野葵が現れた。 そんな俺を葵が良く思って無いことは、教室で葵が俺を見る目つきの険しさに現れていた。 自分だって噂は酷いものなのに……。 ただ葵は美人で澄ましてる割には茶目っ気があるのか友達も多いし、回りは賑やかでいつも楽しそうにしている。 そして……、何よりの欠点は馬鹿だ。 信じられないことに中間テストで学年ワースト10に入っていて、補修に付き合わされる羽目になった俺は待ち合わせの日から奴にすっぽかされた。 それは俺を酷く余計に苛立たせた。 そんな奴は葵が初めてだったからだ。 おまけに声を掛ければ無視決め込むし、口を開けば『うっせぇなぁ』とか暴言が絶えない。 頭の中は女子の事でいっぱいだし、中身が透けて見えるほどにペラペラで、見た目だけで90パーセントの徳をしてる男だ。 だけど……。 葵が隣の席に着席した時……。 『み~つけた!』 ……そう思ったんだ。 俺は新しい玩具を見つけた時のように久しぶりにワクワクした。 柔らかそうな栗色の髪の毛の隙間から、俺を睨みつけて来る瞳にゾクゾクした。 形の良い唇から零す言葉は、綺麗な見た目とは裏腹で信じられないくらいゲスくて下品だ。 隣の席でツンと澄まして座っている葵は、黙っていれば王子の如く崇高でいて高慢そうに見えた。 だけど、そんな葵が快楽に悶える表情を想像したら堪らなく胸が疼き、ノンケの葵を攻略してみたいと本気で思った。 そして何度か遊んで飽きたら捨てればいいのさ……何時ものように。 それだけ……。 俺はそんな事を考えていた。 そう、俺はまだ一年前の打撃から抜け出していない。 葵と同等のクズなのだ……。

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