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第30話

午後の弱い日差しを浴びて、俺は自宅へと向かう煉瓦作りの道をノロノロと歩いていた。 静月の奴、なんだよ……、あの態度は無いだろ……。 俺を無茶苦茶執拗に抱きやがったのに、早く帰れと急かすとか無いだろよ普通。 もう少し労わってくれてもいいんじゃね? ほんとかわいくねーな……。 まあ、それが静月凌駕なのか……。 順番待ちの列は途切れないと言うし、相手してもらえるだけでラッキーなのだ。 俺は成り行きでこうなってしまったが、ゲイじゃないし男はごめんだ。 あの別れ方はある意味正解かも知れない。 男同士でエッチとか、衝撃的ではあったが二度と無いことだから、あのくらいあっさりで良かったんだ。 変に馴れ馴れしくされても困る。 男にあれほど強烈に欲情した記憶とか、自分の中では受け入れ難く、早く消し去りたいと思ってるし……。 まあ嫌でも学校で毎日顔を合わすから、すぐに忘れるとか無理かも知れないが、瑛斗とのこともあるし、トラブルを避ける為にも静月凌駕には近寄らない方がいいだろう。 俺は明日からの憂鬱にため息を吐いた。 ちょっとした遊びだった……と、いうことにしとこう。 ポケットからスマホを取り出すと、いつの間にか電源を切られていたことに気づいた。 静月の仕業だ。 着信が無かった筈だ……、あったとしても取る余裕があったかどうか……。 どっちにしても沢山の着信履歴の中から、母親の名前を見つけてギョッとなる。 やっべ……昨日夜勤で居なかったんだ。 ……て事は、今は家に居るな……。 我が家の門限は21時だ。 それも一方的に母親が決めたルールで、子供には有無を言わせない。 まあ、19時とかお子ちゃまタイムでないことだけは救われるが、どっちにしろ今は15時で門限破りにしても酷すぎるな、角が生えてる母親の顔が目に浮かんだ。 かってこんな憂鬱な朝があっただろうか……、そんな事を考えてたらあっという間に家にたどり着いた。 そして、そろりと音も立てずにドアを開けたそこに居たのは……。 「座りなさい!」 仁王立ちした母親がいた。 明らかに夜勤明けで睡眠を取っておらず、目の下にクマが薄っすらついて機嫌の悪さが際立っていた。 きっと俺には見えない魔界の角が生えてるに違いなかった。 でも、今の俺は母親に負けないくらいの酷い顔をしてるに違いなかった。 俺が靴を脱ごうとしたら。 「何してんの?そこに座るのよ!」 え? この冷たい石の上ですか? 母親は腕組みをしたまま有無を言わさない。 俺は仕方なく玄関に正座する……。 「あんたねぇ、言ったでしょ?妹や弟の面倒見なさいって!まだ中学生と小学生なのよ?二人で置いとくなんて何て子なの?お兄ちゃんのあんたがしっかり面倒見なさいって、いつも言ってるでしょ?私が夜勤の時は絶対に外泊禁止なの!何度言ったらわかるの?……」 まあ俺の外泊はこれが初めてじゃ無かったんだけど、今までは妹に金を渡して何とか逃れてはいたが、今回は口止め料がまだだった……てか、外泊するなんて俺も思ってないし。 静月のやろう……、どうしてくれるよ。 そんなこんなで俺は痺れが切れて、足の感覚がなくなるまで延々とお説教を食らうのだった……。 母ちゃん最強……最怖……。

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