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第31話

まったく……。 たかが16年だけど、人生最高のエッチを味わい昇天したと思ったら、朝から玄関先で正座とか……、浮き沈み激しすぎる一日だ……。 母親の説教を気が遠くなるほど聞かされた後、漸く解放された俺は、傾れ込むようにしてベッドへ転がった。 天井を見上げると、静月の家の高価なアンティークな照明とはかけ離れた、子供のころから使っている、質素でいて素朴な木でできた鳥の照明が灯っていた。 部屋の広さや高級そうな家具とか、こんなにも回りの友人や育った環境が違うのに、近づいてしまった接点の、学年最下位の成績を呪うしかなかった。 相手が悪かった。 まともな奴なら普通に勉強して終わるはずだったのに……。 どうしてこんなことになったんだろう……、明日、静月と顔を合わせることを考えてたら、この上なくどんよりと心が重くなった。 そんなことをぼんやりと思い巡らしていたら、腹がぐーっと鳴った。 ああ、昨夜から何も食べて無かったんだ……、エッチに夢中で夜中に喉が渇いたと訴えたら、静月が持ってきてくれたオレンジジュースを飲んで、イチゴを口にしたっきりだったな……。 すぐに取り上げられて代わりにキスの嵐だったけど……。 我を忘れて夢中になったこととか、思い出しても顔が赤くなるわ……。 やだやだやだ……、早く忘れたい、あれは人生の汚点だ。 明日からはいつものクールな河野葵に戻って女子といちゃこらしよう、うん。 でも、あのイチゴ美味かったな……、なんて考えているとドアにノックの音がして、母親が部屋に入って来た。 手に袋を持っており、ベッドに腰掛けると俺にそれを手渡した。 「なに?」 「あんたね、気を付けなさいよ、妊娠させたら一生面倒見ることになるのよ?わかってんの?」 え? 俺は袋の中にあるコンドームの箱を見てギョッとした。 「ヤルなとは言わないわよ、あんたの年頃は多感な時期だからね。ただ、もし妊娠でもしたらその娘やその子供の養育とか責任取る覚悟があるかってこと」 うは、重いなまたこれ……説教の続きか? 母親の言いたいことは分かっている。 俺の家は母子家庭ではないが父親が不在だ。 どうしてかというと、若くして両親は結婚したが、子供を三人作った時点で父親の仕事が忙しくなり、海外を飛び回る生活をしているので年に一度くらい立ち寄る感じだ。 母親は子供を両親に預けながら子育てと学業に励んで、かなり苦労して今の仕事に就いた経歴がある。 だからきっと見た目も性格も父親とそっくりな俺に、姿を重ねているに違いなかった。 厳しいのなんのって……、俺は親父とは違うぞ。 「ねぇ、わかってんの?」 「わかってるよ……」 「必ずコンドームは着けなさいよ?」 「わかってるって……」 まあ、今日の相手は男だけどな……と、心で呟いた。 しかも、悲しいことに俺はコンドーム必要無かったし……。 「それと妹たちの事だけど、あんたなりに面倒を見てるとは思うのよ、だけど下の二人はまだ子供なのよ、悪いけどあんたにはしっかりしてもらいたいの」 「うん……」 「私も頑張るから、悪いけどお兄ちゃんも一緒に頑張って欲しいんだ」 確かに母親は激務な夜勤をこなしながら、普段は遊びに行くことも無く頑張ってる。 まあ、このマンションの一階にある幼馴染の経営するバーにはよく行くが、それは仕事帰りに一杯引っ掛ける感じで、きっと日ごろの愚痴をこぼして鬱憤を晴らしているのだろう。 俺は母親の目を見ながら頷いた。 「じゃ、少し眠りなさい酷い顔してるわ」 「うん」 母親は俺の顔に掛かる前髪を優しく払いながらそう言った。 家では父親の話が禁句のように、食卓で話題に上ることは無い。 母親がまず口を開かないから父親のことをどう思ってるのかさえわからないし、子供たちも遠慮して話をしないのだ。 なのでほぼ母子家庭に近い我が家である。 母親が部屋を出て行った後、コンドームの箱を見ていた俺だが、いや……しかし母ちゃん、俺のサイズよくご存知で……。 ぴったりじゃん、しかも極薄……、俺これじゃないと駄目なんだよね、これが一番違和感なくて最高。 補習明けには一箱全部使ってやる!!! ……と、ナンパな思考を取り戻しながら思いを馳せていたが、やがて襲ってきた睡魔には勝てず、何時しか眠りに落ちたのだった……。

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