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青木潤……。
わざわざ俺の視界に入るよう前に回り込んで来て、頭を少し傾けて可愛く微笑んでいるんだが、その目はゾッとするくらい黒く濁っている。
そして再び俺の頭に足を乗せやがった。
「このまま踏み潰しちゃおかな……」
グロいだろ潤よ……、それにめっちゃ楽しそうだな。
クソッ、ジリジリと頬骨に砂が当たって痛い。
「ひっ……っ……!」
近くで誰か女子の悲鳴に似た声がした。
「やめて……そんなこと……」
ん……?
その声は……。
そう思った時、両腕を掴まれ身体がふわりと浮いたと思ったら、硬い椅子にいきなり乱暴に座らされた。
目の前には立ったまま腕組みして薄ら笑いをしている潤と、その横には少し前に痛めつけたチンピラが数人立っていて、そしてちょっと後ろの方になぜか由紀ちゃんがいた。
え……、なんで?
もしかして、また捕まっちゃったのか?
この前の仕返しにこんなことになってんのか?
俺と由紀ちゃんの目が合ったが、由紀ちゃんはすぐに顔を下向けた。
でも、頬に涙が流れていた。
まいったな……今の俺には助けることもできない……、あん時、俺めちゃめちゃ殴ったからなコイツら……。
マズイな……。
「由紀、だいたいおまえが不甲斐ないからだ」
「ごめんなさい潤く……」
「様と言えといったろう?潤様なんだよ!」
「……ごめんなさい……潤様……」
え……?
なんだって?
様……?
「この女はね、僕の事を愛してやまない僕のしもべであり、性処理人形なんだよ。こう見えても僕はバイでね、女の子も抱けるんだよ。由紀は僕の言う事なら何でも聞くんだ。驚いたかな?」
見るからに男しか興味なさそうな潤が女子を抱く姿は想像できなかった。
しかも由紀ちゃんとそういう関係だったとは……、何がなんだか……。
「まだよく分かってないようだね。由紀が町でこいつ等に絡まれたところからすべてが演技だったのさ。あの日から由紀はおまえのことを監視して僕に報告してたんだよ。おまえに会った時から嫌な予感がしてたんだ、僕の感は当たるからね」
なんだって?
すべて演技?
そうだったのか……、単純な俺はマジで由紀ちゃんに好かれてると思ってすっかり己惚れてたわ。
バカだな……。
「センパイ……ごめんなさい……でも、由紀は……」
由紀ちゃんが泣いて謝って来た。
「黙ってろ由紀!」
潤の怒った声が倉庫に響いた。
「由紀、跪いて僕の靴を舐めろ」
「はい……」
由紀ちゃんはゆっくり潤の前に跪くと、身体を屈めて潤の靴先を舌で舐め始めた……、俺はその異様な光景にゾッとした。
あのいつも明るい笑顔の由紀ちゃんが、泣きながら潤の靴を舐めている。
こんなにも悲しそうな由紀ちゃんを見るのは初めてだ。
「もういい由紀!」
潤は鬱陶しそうに片方の脚で由紀ちゃんの肩を蹴ったので、彼女はよろめいて後ろに倒れてしまった。
「僕としてはおまえが静月から離れて、もう用なしの由紀とくっつくなら、それはそれで良しとしようと寛大な恩情だったんだが、残念ながらこの女に魅力が無いのか、それともノンケのおまえが凌駕とのセックスに余程ハマったのか、君は由紀に手を出さなかったね。僕は何度も忠告したよね?凌駕には手を出すなと……、だけどおまえは僕から凌駕を奪った!」
すすり泣く由紀ちゃんの声が広い倉庫に木霊する。
まさかの由紀ちゃんにそんな役割があったとは……、その涙は誰の為だ?
最後に付き合ってと言ってた時、泣きそうな顔してたのはこのことを心配してたのか?
それとも俺攻略に失敗してしまった潤への忠誠か?
だとしても、俺に何度も付き合ってと言ってくれてた顔は嘘には見えなかったし、家から出るな静月と一緒にいろと忠告もしてくれた……、あの顔は真剣だったよな。
全てが嘘だったというのか?
混乱する……。
それに俺は静月を奪ってなんかねーけど……、潤に言われてからは気を付けてたし……静月の気まぐれでちょっかい出されれば断れないこともあったけど……、あれを奪うと言えばそうなのかな……。
だったらやっぱ悪行が自分に跳ね返って来たのか?
神様、それが罰だとしたら……早くね?
この状況、どうみてもヤバイよな。
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