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「……!」
「あ……おぃ……」
ずっと……遠くで俺の名前を呼ぶ声が聞こえる……。
「葵、しっかりしろ!」
その声に、俺の身体はピクリと反応した。
そして誰かが優しく上半身を起こしてくれた時、ゆっくりと目を開けた。
そしたら……、一番、聞きたかった声、見たかった顔がそこにあった。
「静月……?」
「葵……!」
夢か……?
これって現実?
夢でも幻でもいいや……、静月に抱かれたまま眠りたい。
「起きろ葵、もう大丈夫だからな」
静月にそう言われてホッとしたのか、俺の身体も精神も解放されて思わず目を閉じてしまった。
「眠るんじゃない」
そう言いながら、静月は俺の脱げかけた服を直してくれていた。
その暖かい指が身体に触れるだけでざわざわと胸が騒ぐし下半身が熱くなる。
こんな時に……クソッ……これはクスリのせいだ……、こんな時に発情すんな俺。
「立てるか?」
「無理……」
……て、言ったのに相変わらずドSな静月は無理矢理俺を立ち上がらせやがった。
この野郎……、足がフラついたがそこはしっかり支えてくれる。
辺りが騒がしいのでふと顔を上げた瞬間、目の前に広がる光景に俺は驚いた。
チーマーともヤンキーともつかない連中が50人くらいで鉄パイプやナイフを振り回して戦っている。
はぁ?
すげぇ……、なんだ、なんだ?
「姫の奪還に参加してくれた奴らだよ」
「だーれが姫だよ!」
口では文句を言ったが、こんなにも大勢の人が助けに来てくれたのかと思うと驚いたし、俺の為に戦ってくれているのを見ると感謝しかなかった。
「俺の大事な葵に手を掛けた罪の代償は払わせるよ、奪われたら痛い目に合わせて奪い返す、これ鉄則ね。」
辺りを呆然と見ていた俺に、静月はとびきりの笑顔を向けて笑った。
イケメン過ぎるじゃねーか!
惚れるぞ?
いや……、ずっと前から惚れてたけども。
「凌、後ろ!」
誰かが叫んだと同時にナイフを持った男が襲い掛かって来た。
俺を支えつつも、振り向きざまにそいつに足蹴りを食らわせた静月は、俺がちゃんと立てるか確認した後、俺を庇うように背後に移動させた。
あ……この守られてる感が心地いい。
次から次へと襲いかかってくる奴を殴り倒す力強さは半端なく、俺が無理に戦わなくてもいいんだと思える感覚は、背後に居てすげぇ安心感があった。
しかもコイツ、遊びとはいえボクシング習ってるからな……、王子様のような上品面した男が、まさか悪魔のように強いなんて誰も思わないだろう、相手が可哀そうなくらいだ。
だけど、良かった……静月が来てくれた。
もしかしたら、もう会えないかも知れないと覚悟した静月に再び会えた。
そう思って安心したら、ヘナヘナと崩れ落ちそうになったところで、静月に抱えあげられた。
「葵……!」
顔が近い……、一瞬俺の鼻先を静月の唇が掠めた。
しかし、なんでそんなに清々しい顔してんだよ、戦っても息ひとつあがってねーな。
静月は俺の頬に手を当て様子を見ながら言う。
「ボロボロだな葵……」
「うっせぇ……、助けに来るの、遅っせーんだよ……てめぇわ!」
「流石の葵も怖かったようだな?」
「あたりめーだ!もう終わったと思ったわ」
「反省するんだな、俺の言う事聞かないからこういうことになるんだよ」
く……、その通りで返す言葉もない。
しかし、指で優しく唇撫でるのやめろよ。
下半身の熱がぶり返すじゃないか。
「これで俺が必要だと分かっただろう」
「……必要じゃねーし!」
「相変わらず素直じゃないな、助けに入るのが少し早かったようだ」
その悪魔のような瞳がキラキラ光っている。
「んなわけねーだろ!死ぬかと思ったんだぞ!……いやまて、え……おま……まさか……、助けに入るのわざと遅らせた……な?」
静月はニヤリと笑った。
「葵は罰を受けないといけないからね、いろいろと……」
「はぁぁぁ?」
信じらんねー!
「ケツ出すとこだったんだぞ!!!ケツを!」
「見ててちょっとゾクッとしたよ」
わざと息を吹きかけながら、耳元でそう囁きやがった!
「てめぇーーーーわ!俺を殺す気か!」
「殺すわけないでしょ、後でたっぷり可愛がってあげるから」
微笑んではいるが目が笑って無いぞ?
こんな時に何考えてんだよ!
でも、ちょっとドキドキする……、すげーっドキドキする。
そしてなんだか、めちゃ幸せな気分になったぞ?
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