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「本当に無鉄砲で無防備で、俺を悩ませてくれる葵だけど……」
その時、いきなり後ろから殴り掛かってきた奴に向かって、素早く反応した静月は蹴りやパンチで応酬した。
その無駄のない動きは流石だし、脚も腕も長くてかっけーな、こんな奴と張り合ってたなんて恥ずかしい。
どう見ても敵わないよな。
無敵かよ……。
「俺はいつだって葵を助けるから、俺の側を離れるな」
静月は振り向くと、俺を真っ直ぐに見てそう言った。
ドキッ……、心臓がいきなり音をたてて動き出した。
なんだよ……こんな時に照れるじゃねーか、ヤバイ……チンコが育つ!
「顔が赤いよ葵。エッチだな、こんな時に何考えてんの?」
こいつ……、殴っていいですか?
一瞬でもかっこいいと思ったの取り消し!
俺のテンション乱す天才かよ!
「凌!」
静月が遠くから名前を呼ばれた。
すっかり忘れてたが、今は喧嘩の真っ最中だった。
騒めいている集団の一人から声掛けられて振り向くと、潤が取っ捕まって両脇を掴まれたまま俺たちの前へと引っ張られて来るところだった。
当然ながら潤は『放せ!』と大声で叫びながら暴れている。
「おまえら、僕にこんなことしていいと思ってるのか!」
「何様だよ潤」
取り押さえている奴が鼻で笑った。
「汚い手で僕を触るな!おまえらなんか後で酷い目に合わせてやる!」
「おまえはもう終わりだよ」
後ろから啓介が鉄パイプをわざと引き摺り、カラカラと音をたてながら現れた。
服は別に不良ぽくもなく、普段着ている高そうな洒落た格好だったが、表情はいつもの軟派な啓介とは違い、なんか迫力あってすげぇカッコいい。
「おまえこそ!父親が偉いからって僕をどうこうしようなんて百年早いからな!僕は何もやってないし、証拠だって無いだろう!それに僕には敏腕弁護士もついてるから!」
「黙れ。さっきまでの動画撮ってるからな、殺人未遂もペラッてたし、拉致監禁、その他もろもろ罪状はたっぷりあるから警察で弁解するんだな」
潤は何かを言おうとしたが、グッと歯を食いしばって啓介を睨みつけていたが、急に静月の方に向き直ると、コロリと態度を変えて困ったような顔をして訴える。
「凌駕、僕を見捨てるの?僕がどんなに君の事……」
「潤、俺に再び近寄って来たのが運の尽きだったな」
静月は静かにそう言った。
「僕は凌駕が一番好きなんだよ!誰よりも!」
「例の一件で、俺が何も知らないと思ってるのか?」
潤の顔色がサッと変わり目つきが鋭くなった。
「……樹のこと?」
顔を顰めながら小さな声で呟くように聞いたが、静月はそれを無視して話を続けた。
「沈黙してたのは決定的な証拠が無かったからだ。樹をどういう風に脅かしたのか知らないが、口を閉ざしたままあの後すぐに外国へ行ってしまった。だが愚かなおまえは今葵の前で全てを告白した……」
「僕が?脅かしてなんかないよ!あいつは両親の仕事の都合で外国に行ったんだよ!それに……、そんなのずっと昔の話でしょ!それに凌駕は僕の事愛してくれたよね?優しく抱いてもくれたじゃないか……」
ガッ!
頬を打つ鈍い音がしたと同時に、俺の右手にじわっと痛みが走った。
俺は静月の腕から離れて、思わず潤を殴りつけてしまったのだ。
「勝手なことばかり言いやがってクソが!」
言い終わったら足元がフラついて、静月に後ろから抱き止められた。
「僕を殴ったね!この僕を!!!おまえなんか殺してやる!」
潤の甲高い耳障りの声を出しながら俺に飛び掛かろうとしたが、それはあっけなく周りの連中に取り押さえられた。
犬の遠吠えのようにぎゃんぎゃんと、女々しく泣き叫んでいる潤の声が遠くに聞こえる。
そして世界がぐるぐる回り出したと思った次の瞬間、俺は意識を手放した。
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