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光が眩しくて目が開けられなかった……。 太陽の光が背中に落ちているのか、温もりが伝わってきて心まで暖かくなった。 俺死んだのかな……、ここは天国? 意識が戻ってくると頭がガンガン痛んだが、熱があるのか身体は火照っていた。 熱い……、身体が燃えるように熱かった。 リネンのシーツから微かにどこかで嗅いだことのあるいい匂いがする。 ああ……思い出した……この匂いは……静月の匂いだ……。 死ぬ前にもう一度会いたかったんだ……、そして会えた……よな? 長い長い夢を見ていたようだった。 静月が俺を助けに来てくれたような……、敵をボコボコに蹴り倒す逞しい後ろ姿に惚れ惚れした記憶、そして優しく抱きしめられた……気がしたけど……? 夢……、だったのか? 夢だとしたらかなりリアルだったよな……、じゃあ、いったいここはどこなんだ? 重い瞼を少しだけ開けて確認しようとした時……。 ガツッ! いきなり頭を小突かれ、その痛みに甘い夢をみていた俺の思考は停止し、頭を抱え込んで猫のように身体が丸くなった。 「痛っ……!!」 思わず声が出た。 なんだなんだ? 「起きろ」 え? 静月の声がする……。 いるの? 恋しいから気力を振り絞って目を開けながら、声が聞こえた辺りに顔を向けると、やはりそこにいたのは王子のように清々しく、モデルのように眩しい姿の静月が上半身裸に、白いスウェットを履いて立っていた。 相変わらずかっけーな、でもその顔を見て俺はちょっと狼狽えてしてしまう。 なぜならその表情は明らかに怒っている時の顔だからだ。 何度も見覚えのある南極の氷のように冷たい目。 えーと………。 この状況は……、どういう状況だろうか? 頭の中で整理しよう……、俺の記憶が正しければあの薄暗い倉庫で俺は記憶を失った……と思う。 それからの記憶が無いし、目覚めればふわふわのベッドの上で……。 「俺って死んだの……?」 そう言い終わらないうちに静月の指が伸びて、俺は頬を抓られて悲鳴をあげた。 「痛いわっ!!!」 「生きてるからな」 乱暴じゃね? 甘い目覚めを期待した俺がバカだった。 めちゃ機嫌が悪いんだけど俺何かした? でも聞き返す勇気が出ないのは、急速に意識が覚醒し始めたら、静月を怒らせている原因を色々思い出すと、心当たりはいっぱいあったが今はそれについて話し合う気力がない。 ということで、時間稼ぎをしようとずるいことを思いつく。 「お願い……もう一時間だけ眠らせて……」 「起きろってば、叩き起こすぞ」 く~っ……、悪魔かっ! 静月はマジでやりかねない。 俺は渋々頭を枕から剥がせた。 「鬼か……てめぇわ……」 視界がグラグラする、こめかみはズキンズキンと痛む。 なのに静月は死刑執行人のように、容赦なく俺をベッドから追い立てようとする。 「昨夜からお前の母親が葵からの連絡が無いって、心配して何度も電話してきてるから返事した方がいい。俺が何度か取り繕ってるけどそろそろ限界で疑い始めてるからね」 うー……、頭痛い要因がまた増えた……。 そうだろうな、俺を探したんだろうな……、しかもなんで俺ここに居るんだろうか? てか静月にはいっぱい聞きたいことがあったが、電話を掛けてるから後で聞こう。 「……ほら、変わってって」 静月からスマホを渡される。 『葵!?』 「うん……」 『昨日から何度も電話してるのよ?出なさいよ!』 「なんか用?」 『なんか用?じゃないわよ、外泊するならするって電話してきなさいって何時も言ってるでしょう?』 「ああ……ごめん……」 もっともな話で言い訳する気は無かったのだが、頭痛が酷くてさっさと通話を切りたかったのが本音だった。 終電逃して静月ん家に泊まらせてもらって、今まで爆睡してたという言い訳に落ち着いた。 小言をしばらく聞かされた後、お礼を言いたいから静月に代わってといわれたのだが、それさえも億劫で適当に誤魔化して電話を切り上げた。 ふぅ……。 俺あれからどうなったんだろう……、テーブルに張り付かされてたけどまさか……。 でも腹を殴られた痛みはあっても、下半身に痛みは無いから多分フィストはやられてない……よな……? その時、静月の手が俺の顎に伸びてきて上を向かされた。 何を考えているのか分からない時の、静月の冷たい瞳と目が合った。 怒ってるよな……。 でもその理由を俺から聞き出す勇気はない。 「あれほど出歩くなと言ったのに……」 しばらくして、静月がそう言った。 そうだった……、護衛まで付けるよういろいろ考えてくれてたのに俺ってば……。 「ごめん……」 「本当に手が焼ける奴だな……、助けに行くのが遅れてたらとんでもないことになってたよ……、命もあったかどうか……」 そうだな……、潤は俺をどうにでもできたし、恐ろしいことに本気だった。 そう思うとゾッとした。 静月はじっと俺の顔を眺めている。 「……酷い顔だ……。身体もこんなに殴られて……」 そう言う静月の視線の先が気になってその先を見ると、あ……、俺まっ裸じゃねーか。 半分めくれたシーツから出ている、身体についた無数の痣を見て顔を顰めている。 「うん、死ぬかと思った……」 「俺が殺したいよ」 え? 静月の手は、俺の顎から首へと下りて行き、そしてぎゅうっと食い込んだ。 ぐっ……。 ……え? マジ? 「く……苦しいんだけど?……静月?」 あの……、静月様……?

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