34 / 213
第34話
俺が息子ちゃんの呪縛を解いてトイレから出てきた時、ドアの前ですずいが仁王立ちしていた。
「もーー!お兄ちゃんてば、いつまで入ってるの!時間無いんだからー!」
「うっせぇ、ブス!」
「ママー!!!お兄ちゃんがブスブス言うーーーっ」
大声で台所に居る母親に訴えやがった。
朝からうっせっ、俺一人暮らししたいわ……。
こっちはマジ気分悪いってのに……。
妹と入れ替わるようにトイレを出て洗面所に向かうと、そこでは空がいつものように口いっぱいに泡を付けて歯を磨いていた。
「%’)==~()($#」
どうやら”兄ちゃんおはよう”と、言ってるらしい。
「おはよー、空」
俺が挨拶を返すと、空は目を細めてニッコリ笑った。
コイツは従順でほんと可愛い。
それに幼い頃の可愛かった俺とそっくりで、みんなからちやほやされてる割には素直だし、ちっとも擦れてないところがいい。
成長したらきっと俺みたいな軟派な奴じゃなく、硬派なイケメンンになるに違いない。
「に#$ち……%)=」
”兄ちゃん”
「ん?」
空はいつになく真面目な顔をして、俺を見上げながら言った。
そして、歯ブラシを口から出した。
「朝勃ちって何歳だった?」
ブッ!
朝から何つー質問だよ。
「俺は小5くらいだったかな、丁度お前の歳か……」
「僕まだなんだよね……病気かな?」
曇る表情が真剣なほど、俺も通ってきた道なのでちょっと笑ってしまう。
「病気じゃないよね?僕女子で好きな子いないんだけど……、大人になったら光太郎さんみたいに男の人を好きになるのかな……」
ブッーーー!!!!!
弟よ……、今その話題はどうかやめてくれ……。
「え……と、空……。朝勃ちが無いからと言って将来ゲイになるわけじゃない、個人差があるから中学でなる奴もいるし……」
「そうなの?」
ぱぁっと、空の顔が明るくなった。
「兄ちゃんのいう事信じろ」
「うん!」
なんていい子なんだろう、この家で空だけは俺を兄として崇めてくれている。
可愛い奴め。
「お兄ちゃん、今日ご飯当番だからね。忘れないでよ」
いつの間にか隣に居たすずいが、歯ブラシに歯磨き粉を乗せながらそう言った。
こっちは、ホント可愛くない。
「いっつも私に任せて、たまには作ってよね」
「はいはい……」
ま……、そうだなたまには作るか……下手なカレーライスでも……。
憂鬱な朝が余計憂鬱になった。
ともだちにシェアしよう!