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「……葵、泣くな」
目に手を持っていくと涙に指が濡れた。
やばいやばい、こんな時にまた女子かよ俺!
急に恥ずかしくなり、頬が赤くなったのを見られないよう、リビングの方へと動き出した瞬間、足にシーツが絡まっていきなり転倒した。
ドスン!
鈍い音と共に、痛みが身体に広がった。
テンパり過ぎだろう俺。
どんな醜態よ……、本気で泣いていいですか……、いや既に泣いてるようだし。
「葵、落ち着けってば、ケガはないようだけど?」
静月の手が優しく肩に乗せられても、目が合わせられない俺はフイッとそっぽを向いた。
「俺を見て葵」
いつものように両手で頬を挟まれると、無理矢理顔を上げられて、静月の悪戯な瞳と目が合った。
情けない俺を見て絶対面白がってるなこいつ……。
「わかったよ。葵の言う通りちゃんと話をしよう」
「いや、もういい……、おまえのことはわかってる。帰るから服を貸せ」
そう言い捨てて、その手から顔を剥がして逃げ出そうとした時、身体がふわりと浮いて次の瞬間ベッドへ投げられた。
その俺の上に静月は馬乗りになり、俺の両腕を掴むと頭上に押さえつけた。
なにこの漫画みたいな構図、でも無様な俺に対していちいちやることが様になってんなコイツ。
でも、今はそれどころじゃねーわ。
「俺に触んな!」
今の俺は全身性感帯だから、触られただけであっけなく陥落寸前で……。
「ほんとに葵は……、バカだな」
「バカバカ言うな!腕を離せよ!」
「ねー、俺が葵を傷つけるとか本気で思ってんの?」
「思ってる!」
静月は深くため息を吐いた。
「ねえ……、俺は葵のこと好きだって言ったのに、どうして信じてくれないの?」
「お前は嘘つきだから……」
「気のない振りしたり、突き放した理由はすべて葵を守りたかったからだよ」
「知らねーし!勝手なことばっか言いやがって」
「すっかり俺不信になってるな」
「当然だろ?おまえ俺に今まで何言って来た?それに何してきたよ?嘘ばっかつきやがって」
「何してきた?少なくともあれだけ喘いでいたから、嫌じゃなかったよね?むしろ、喜んでたし」
「ばっ……、ばか野郎!あれは……いや……それはどうでもいいだろ!そこじゃない!」
「じゃあ、どこ?葵の身体はもっと素直だったけどね」
そして静月は怒ったような顔して、少し乱暴にいきなりキスをしてきた。
俺の抵抗をあくまでも強行突破するつもりだな、そうはさせるものか!
と、思うも……、あっ……つ…………、くちゅり……くちゅ……、元々、熱に浮かされた身体が意志に反して反応するのは早い……。
だけどそれを気付かれるのはもっと癪に障る。
キスしたい……キスしたい……けど、怒ってるから離れたい……、心は複雑だ。
「もう説明は何度もしたよ、全ては葵を守るためだったって。その上でさっき俺の事必要だって言ってくれたんでしょ?俺も葵のこと好きだし、抱きたいと思うのは当然だよね?」
いや……なんかもやもやする。
こんな勝手な男に屈服する自分自身にもイラつく。
「離せ!」
「暴れるな」
静月に握られた腕がさらにきつくなる。
俺の上に圧し掛かり、強引に首筋にキスをしてくる。
「無理矢理ヤろうってのかよ、笑える!」
「黙れ、それ以上言うと本当に犯すぞ」
「賺した顔してやること犯罪かよ!上等じゃねーか!てか、触んな!」
だめだ……、静月に触れられると身体が燃え上がる。
「ほんと、口の減らない奴だ」
ほんの少し、静月は呆れたような顔をした。
「言葉で言っても信用しないのなら、その身体に叩き込んでやる」
「ふざけんな!」
俺がじたばたあがいても静月は手を緩めようとしなかった。
反対に俺がパニクるのを見て、嬉しそうにニヤリと笑って楽しんでいるかのようだ。
クソッ……抵抗したいが触られた皮膚がざわついて、意識と反対に抱きしめられたいと肌が熱い。
く……っ……。
だめだ……耐えられない。
その時、再び唇が降りてきた。
「あっ……ふ……」
気持ち良さに、あっさり身体が仰け反る。
そんな腰を持ち上げられ、暖かく、いつの間にか勃起した静月の息子が、俺の盛大に上を向いたチンコに触れ合うと、ピリピリと快楽が全身を駆け巡った。
「あぁぁぁ……っ……や……っ……めろ!」
静月の手が身体に触れただけでジンジンする。
「こんなに敏感になってて、家に帰さなくて正解だな、それだけ薬が効いてたらまた街に出て相手探すだろうから」
「そんなこと……する……かよ……!」
「じゃあ、手っ取り早く来栖を呼ぶのか?」
え……、なんでいきなり将生だよ……。
「あいつと寝たらどっちもフルボッコするからな」
へ……?
「静月が……嫉妬かよ、うける……」
「嫉妬するよ。当り前じゃないか、葵が誰かに抱かれたら殺すからな」
「まじ……う……ける……」
静月に嫉妬されるとか、気分がいい。
「わかった?」
「誰と寝ようが……俺の……勝手だろう?」
「まだ抵抗する気のようだ。葵は俺のものになりたくないの?俺だけの唯一に……」
え……、『俺だけの唯一』って……?
静月はローションを取り出し、それを垂らされたケツにヒヤリと濡れた感触があった。
「あ……っ……、冷た……い……っ……」
「俺は葵に側に居て欲しいし必要なんだ。だから葵も俺だけのものになれ」
そんな甘い言葉になんか身体の中心がジワる。
「ちがう……し……、俺は……俺のものだ」
その時、静月はフッと笑った。
なんてイケメンなんだよこの野郎……、その笑顔を見て毒に犯されたのか、俺もやっぱこいつと居たいと思ってしまった。
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