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第36話
「なんか今日の葵元気なくね?」
食堂の席でラーメンをすすりながら将生が俺にそう言った。
「そんなことねーよ」
「あるある、今日物静じゃん、あんましゃべんないし」
あずみが食後の紙パックコーヒーに、ストローを突き刺しながらそう言う。
「なんかあった?」
ギクッ……、将生は意外と感がいい。
真っすぐ向けて来る視線が妙に痛く感じるのは、この週末に起こった人生最大の出来事を、大っぴらに言うことができない後ろめたさだろうか?
「……いや、何も?」
そんな心配そうな顔しても、こればっかは言えやしない……。
まあ元気ないのは色々考えさせられるからだ。
昔から絡まれやすい俺は少なからず喧嘩には強いと自負するが、いとも簡単に静月に組み伏せられ、そしてどうしてあんなにもあっさりと静月にヤラれてしまったのだろうか?
とか……。
まああれは……抵抗するのは難しいだろう?
あんなに気持ち良いんだからさ……。
結構、経験積んでいい気になってたけど、静月とあんな経験した後では、女の子にあそこまでの快楽を与えられたかと聞かれると、答えはノーのような気がする。
なぜあんなに我を忘れるほど悶えたのか、思い出すと赤面ものではあるが、俺が感じやすい体質だとしても……、いや静月がそう言ってたからだし……、それにしても静月はやっぱすげぇと思う……。
高スペックにも程がある。
チラ見すると向こうの席で静月は、女子や瑛人を横に侍らかしながら飯を食っていた。
時折、瑛斗と笑いながら会話しているが、俺の前ではあんなに自然な笑顔は見せなかったよな……、ずっとむっとしてて、たまに微笑んだかと思うと、どこか馬鹿にしたような高慢ちきな笑顔だっし……。
ヤッてる最中は……え……と、良いとこ突かれまくって俺は悶え喘いでいたから、ろくに静月の顔とか見てないや……。
あー、やっぱヤダヤダヤダ忘れたくても、インパクト強すぎて忘れられないわ……。
嫌な奴と関わってしまった……。
ぼんやりと静月の方を見ていたらしい。
瑛斗がにこやかな笑顔で俺に手を振った。
ハッとしてぎこちなく手を振り返すも、殆ど喋ったこともない瑛斗の馴れ馴れしい笑顔が俺を苛立たせた。
やっぱ瑛人は静月の恋人なのだろうか?
だとしたら二人はそういう関係だよな……。
そして瑛斗もまたエッチとか上手いのかな……。
鬼のような静月を、あの手この手で喜ばせてるんだろうか……。
気付けば妄想が止めどなく広がってゆくのだった……。
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