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第38話
放課後になって、セレブなる友や瑛斗他、綺麗な天使ちゃん達に囲まれて、話をしていた静月を尻目に、クラブがある将生やあずみに別れを告げて、俺は大河と二人で教室を出て来た。
いいや、別に静月も補習の話は何も言ってなかったし、とりま今日は帰るとしよう。
これ以上あまり関わりたくないしな……、まあ……今日のところは……。
将生が真面目に練習するとか、遊び相手が居ないんでつまんないけどな。
「将生なんでこの学校に入学したんだろ、サッカーなら他に有名なとこいっぱいあったのにさ」
「おま……、そりゃみんなと一緒に居たかったからじゃねーの?」
大河が俺を呆れたように見ていた。
「あー、まあなぁ、俺もみんながいて楽しいしな」
「実際、あいつも勉強頑張ったけど、何てったってスポーツ推薦枠強えーな」
大河は笑った。
「だよなぁ、じゃないと将生がここ受かるわけねーもんな」
大河が吹き出した。
「それ俺のセリフだから!まさかお前がここ受かるとは思って無かったわ」
「失敬な!」
俺は大河の腰に蹴りを入れた。
そうは言ったものの、実際、俺も思って無かった。
鬼母の言いつけで家庭教師を付けられ、そりゃあもう猛勉強させられたからな。
「まあ、将生は将来有望だからね」
ああ見えて将生はユースで選ばれるほどの実力を持っていた、そう言われればそうかも知れない。
特に将来何をしたいとか無い俺は、何か夢中になれる物がある将生が羨ましかった。
あずみはヘアメイクに進みたいとか言ってたし、大河は父親の会社を継ぐらしいし、俺は……なんだろうな……何がしたいんだ俺は……。
校門を出て反対方向の大河と別れを告げ、駅に向かう途中で後ろからみなちゃんが抱きついて来た。
「葵~~く~~ん!」
うはっ、みなちゃんのボインが俺の背中に当たってるぅぅぅ。
程よくゲスい俺。
「ねーねー、今日うち誰も居ないんだ。来ない?」
上目使いの大きな瞳を覆う睫毛がゆらゆら揺れた。
可愛いなぁ。
「え、まじ?!!」
なんて嬉しいお誘いなんだろう!
あ……でもダメだ俺謹慎中だったんだ……くそっ。
「みなちゃんごめ~ん、残念だけど俺今日食事当番だわ、夕飯作らないと……」
「あー、おチビちゃん達居るもんねー、じゃあ、私作りに行こうか?」
「めちゃ嬉しいんだけど、それに俺今謹慎中なんだよね、誰か連れて帰ったりしたら謹慎期間がさらに伸びそう……」
「えー、何したのぉ?あーまさか、また門限破り?」
「う……うん」
「えー、誰とえっちしてたのよぉ、みな嫉妬しちゃうぅ!!!」
「いやいや、まあそれは……」
言えるわけがない!
相手が静月だなんて……まして男だし!
「もう!でもまあいいわ許しちゃう!葵くんはみんなのものだし」
「みんなのものって……」
「だってぇ、葵くんって特定の人作らないでしょ?それに「君だけだ!」って素振りはバツグンに上手いし、一緒に居る時は葵くんのカノだって勘違いしそうになるわ。でも勘違いでもいいの、誰かのものじゃなければまた来てくれるでしょ?」
「みなちゃんポジティブだね」
俺は真剣に感動した。
この世にこんな物分かりの良い子がいるなんて!
「葵くんはみんなのアイドルだもん!独占しちゃダメなの」
「ありがとう、みなちゃん!」
俺はそんなポジティブみなちゃんが愛おしくてハグをした。
俺の腕にすっぽり収まるみなちゃんは、柔らかくていい匂いがする。
やっぱこうでなくちゃ、俺が男にヤラレるとか……ナイナイ、あれは静月の言うようにお仕置きだったんだ、まあそれなりに俺も悪いことをした……、いやあれに関しては未遂だけどな……。
そういう分けで、渋々ポジティブみなちゃんに別れを告げた俺は、電車に乗るために駅へ向かおうとしたところを、後ろからいきなりガシリと腕を捕まれた。
「俺を振り回すのもいい加減にしてくれない?」
アウチッ……、振り返ると苛立ちを隠そうともせず、眉間に皺を寄せて俺を睨みながら静月が立っていた。
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