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第42話

そこが自分の居場所でもあるかのように、自然に静月の横に両膝を立ててちょこんと座った瑛斗は、自分が飲んだ後のボトルを静月に手渡した。 「瑛斗、何しに来たの?」 静月がキャップを閉めて、ボトルをテーブルに置きながら尋ねる。 「今晩止めてもらおうと?」 「どうして?」 「どうしてって、凌駕とイケナイことしようかな~と?」 そして何故だか瑛斗は俺をチラリと見て、伸ばした手を静月の顔に添えると、悪戯な微笑みを浮かべながらその頬にキスをした。 ……。 んーと……。 ……、そうでした。 おまえらは付き合ってたんだっけ? そして親密そうな空気を纏う二人の視線を浴びて、俺は居心地が悪い。 瑛斗が意味深な笑みを浮かべて、その手を静月の太股に置き、まるで自分の所有物だと主張しているかのように思えて、俺はドギマギして目を逸らす。 別にこれ以上静月に関わる気は全く無いので、瑛斗の注意勧告は気づかなかったことにするが、何だか空気が薄く感じられ、酸素不足の金魚のように口を大きく開けて、アプアプしたいほどに息苦しかった…。 はい……、俺に早く出て行けと言うことですね? て、言われなくても出て行くわ! 丁度、一区切りついて勉強終わった所で良かった。 慌てて教科書やノートを片付ける俺だったが、静月が俺を見ているだろう視線が気になり、更に俺を居心地悪くさせた。 意地でも目は合わせねーからな。 全てを鞄に仕舞い終えると、急いで立ち上がりドアに向かう。 「じゃ、ありがと……」 ドアノブに手を置きながら俺は振り向いたが、床に視線を落としたままそう言った。 いくら気にくわない静月でも礼は言わないとな。 「またねー!」 瑛斗の明るい声につられて視線を上げてしまった俺に、ソファに仲良く並んで座っている瑛斗が、にこにこ微笑みながら手を振っていた。 ああ、やっぱこいつ嘘くせぇ。 目が笑ってないんだよぉぉ、いや笑っているけども、心がこもって無いと言うか……。 同じリングに上がるには絶壁の壁があって決して登れない、そしてその上から腕組みして見下ろされてる気分だ。 その横で、静月もまた何やら意味深な笑みを浮かべて『ああ、またな』と言った。 こいつも同じだ、みんな何を考えてるのか本心が見えない。 もやもやが渦巻く胸中を振り払うように急いでドアを閉めて廊下に出たけど、今度はあからさまに邪魔者扱いされたことに怒りが沸々と湧いて来た。 なんだよ、ここに来たときは誘ってたのに、瑛斗が来たから用済みなのかよ……。 まあ恋人なら当然だろうけど……なんかムカツク……。 そしてすげぇ邪魔者扱いになんか傷ついた……。 え? 傷ついた? なんで? なんで俺今傷ついたとか思ったの? ヤダヤダ……なにこの不思議な感情、すっかりペースを乱されきってることにさえショックを受ける。 あの賺した野郎め。 黙っていれば見た目だけは高貴な王子のような容姿の静月を、思い浮かべては悪態をつきながらも、今夜の食事当番である俺は帰り道スーパーへ寄ることは忘れなかったが、今から作るのには時刻も遅く、すっかり気力も失せていて、出来合いの弁当を籠に放り込んだのだった。

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