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静月は昨夜の出来事など無かったように冷静な態度でいたし、俺だけがドギマギぎこちない気分を引きずってることに対して心が沈み、部屋にセッティングされた豪華な朝食を目の前にして、何も口に入れる事が出来ずにいて、色鮮やかに盛られた食事をただぼんやりと見下ろしていた。 冷静になるとだいたいキメセクされたこと自体、腹が立ってしょうがなかったし、そんな好き勝手する静月にムカついていた。 まあ、少々薬を盛られても盛られ無かったとしても、どのみち俺が落ちるのは目に見えてはいたが、その勝手極まりない強引さに抵抗できない自分にも苛立つと同時に、敗北感に襲われて気分はどっぷり落ちていた。 風呂にも入ってサッパリしたし、制服もいつの間にか洗濯されていて、着心地良かったにも関わらず、俺の気分は最低で、なんでここに居るのかさえ不思議に思えた……。 目の前の静月は何時もと変わらず賺した顔して、上品そうにナイフとフォークで優雅に食事を摂っている。 もしかして無かったことにしようとしてるのかコイツ……。 ほんと腹立つ。 「食べて?時間無いから」 静月が、俺の手付かずの皿を見て言った。 「……」 食いたくないんだよ……。 そんな態度のおまえと食事とか、食う気失せるし……。 いや、甘い態度とかは遠慮するが、そのなんつーか……、もう少し普通に優しくても良くね? て、ここでいう優しさって何だろうな……、ただの遊びで明けた朝にどんな態度で接してくれたら俺は嬉しいのだろう。 いやいや、嬉しいとか無いよな……キモイわぁ。 でも、いきなり風呂にザブンは無いだろ。 まあ……いいけど……。 フン……。 俺はいろいろ考えるのが面倒になって、ポケットからスマホを取り出すと、着信履歴が無いかチェックを始めた。 すっかりそれに気を取られていた俺は、静月が隣に来たことさえ気付かず、後ろからいきなり頭を抱えられて、横からキスをしてきたので、咄嗟の事に驚き目を見開いた。 何時ものように唇を割って忍び込む静月の悪戯な舌によって、俺の皮膚がさわさわ泡立ち、思わずスマホが膝の上に手から滑り落ちた。 なんで舌入れて来るんだよ、てか口開けてしまったし……。 クチュリ……、静月のキスは巧妙で、緩やかに俺を溶かす威力がある。 そして挨拶みたいなものだ……、と自分自身に言い聞かす。 「機嫌直して葵……」 「ちが……」 「怒ってるくせに……」 「……」 そうかも……だけど……。 そして静月は俺の座っている椅子を後ろに引くと前に回り込み、肘掛けに両手をついて俺の顔を覗き込んできた。 「拗ねてる葵も可愛いけどね」 さっきまでの冷淡な態度とは打って変わり、そう言って微笑む静月の顔は優しかった。 やめろや、そんなにころころ態度を変えるのは……。 「拗ねるとかねーわ……」 と、精一杯の強がりを言ってみる。 でも静月はそんな俺の声を無視して、チュッと軽くキスをしてきたので、顔を引いて睨みつけるが、その柔らかな微笑みは変わらなかった。 「その顔……、これ以上俺を誘わないで……」 「どこがだよ、頭打ってんじゃねーの?」 唇は離れたが、鼻先が触れるほど顔が近い……。 「一緒に学校休む?」 意味あり気に口角を上げながら、綺麗な顔で問いかけてくる。 本気かどうかは分からないが、欠席は殆どしない静月にとって、それはあり得ない選択だろう。 だとしても俺がこの体力底なしの、この上なく艶やかでエロスな男に付き合うのには限界がある。 静月と一緒だと俺のHPがモリモリ削られるような気がするのだ……。 「バカ言ってんじゃねーよ、行くから……、そこどけ……」 「そうだね時間無いし……」 そう言いながらも俺の後頭部を掴むと、唇を割って舌を挿入させてくる、そんな深いフレンチキスは醒めた熱をジワリと再燃させる効果がある。 本当に俺はこの口の中で翻弄する舌に弱い……、そして静月の着けている香水や体温がジワリと俺に侵入してきて、それは痺れ薬のように全ての機能を麻痺させられそうだった。 かと言って、ここにこれ以上止まる気は更々無く、悲しいくらい身体がボロボロで、死にそうに怠かったが、学校に行った方が無難だと心の天秤が傾いた……。 「やめろって……」 俺は静月の胸に手を当てて、深くなるキスを拒んだ。 「残念……、葵をベッドに縛り付けて置きたかったのに……」 「アホか……」 俺は朝からそんなことを恥ずかし気もなく言う静月を、飽きれたように睨みつけた。 「本気だよ、一日中葵の啼く声を聞いていたいよ」 静月は俺の頬に手を当てながら、親指で唇をなでた。 そしてゆっくり唇にキスを落とす……。 逃げなかったのは少なからずそれを望んでいたからか? 自分でもよく分からない……。 「どうする?葵が望むなら……」 望むわけない……身体も怠いし体力も無い……、そして何より、妖しく誘ってくるこの不利な状況に対して、少し静月から離れて体制を立て直したかった。 「学校に行く」 静月が近い距離で顔を覗くから居心地が悪く、俺はそうぽつりと答えて距離を取ろうと身を捩り顔を背けた。 「じゃあ、行こう」 静月は驚いた風も無く、意外にもあっさり美麗な笑みを零して俺に手を差し出した。 渋々取った手ではあったが、思いの外それは暖かく、俺の心を溶かし、そして何より不可解だったのは、それにより気分が少し上がった自分がいたことだった……。

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