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静月に手を引かれながら連れ出された所は屋上で、雲行きが怪しいのは天気も同じで、今にも雨が降ってきそうだった。
背後でガチャリと鍵を掛けられると、この広い空間に二人きりだと言うことを実感する。
30センチの距離で俺を見ていた静月は、何時もと1ミリも変わらないクールな無表情だった。
今、何を考えているのだろう。
前に静月と俺のことで、瑛斗は『妬かない』とは言ってたけど、静月はどうなのだろう……、あんなに決定的な場面に出くわして、動揺しないわけないだろうに……。
やっぱショックだよな?
瑛斗と長瀬とか……、あれはキツくね?
だけど、次に取った行動に不意を突かれた。
静月が俺をきつく抱き締めてきたからだ。
「静月……?」
数秒の間があって、静月はぽつりと呟いた。
「葵……、昨日の返事は?」
「え……?」
顔を上げた静月が両手で俺の頬を包み、意外にも真剣な顔をして瞳を覗き込んできた。
「俺の全部を葵にあげるから俺のモノになって……」
「静月……」
「欲しくない?」
熱い目をしてそう言って、唇ではなく頬にちゅっとキスを落とされた。
ただ、それだけなのに身体が震えた……。
俺は男だし静月の誘いはふざけていていたが、考えてみたら最初から疑問に思える程に静月を欲っした。
身体が否応なしに静月に反応するのだ……。
男同士だというのに肌が合い、そこから抵抗できない程に強烈な性欲が沸き起こるという事実……。
答えは分かっていた……。
もうそろそろ自分にも静月にも嘘は吐けない。
俺は完全に静月に躾けられたのだろうか……。
ゆっくりと静月の背中に手を回したが、二人を隔てるこの衣服がもどかしいとさえ思う……。
静月は俺の答えを待っているかのように動かす、じっと俺を見つめていた。
そして、俺は我慢しきれずに静月の形の良い唇に自ら唇を重ねた。
瑛斗達に煽られたせいではないが、静月は……腹いせに俺を誘ってるのかなとは思う……。
だけど、そんなことどうでも良かった。
こんなにも性急に誰かを欲したことがあるだろうか……、今は薬も盛られてないし強引に迫られているわけではない。
なのに俺が自ら静月にキスをした。
だけどそれだけじゃ物足りないんだ……、そしてそれは静月によって開放される……。
その先を想像して俺の体温が上昇する……。
静月の背後で雨が落ちてきて、俺の指を濡らした。
何時しか銀の雨粒は大きくなり、コンクリートの地面に音を立てて落ちていた。
俺の舌と絡みつく静月の舌は、ひとつひとつ欲の扉を開けるかのように、ゆっくりと俺の口内を弄っていた。
あんな場面を見た後で、ショックだったかも知れないし、俺は瑛斗の代わりかも知れないが、今はこいつとのキスに溺れたかった。
雨が容赦なく吹き付けてきて、あっと言う間に静月も俺もびしょ濡れになっていた。
静月の頬を滴る雨を舌で舐めながら、舌を抜き差ししつつ深くキスを繰り返す。
立っていられないくらい淫らなキスで、俺の頭はクラクラして静月にしがみついていなければ崩れ落ちそうだった。
制服をぎゅっと握り閉めると、俺の背中に回された静月の腕にも力が入った。
「これから帰って愛し合おう……」
片時も離れたくないという風に額をくっつけたままで、静月が俺に返答を促し、それに俺は黙ったままコクリと頷いた。
拒むなんて無理だ……、それは俺が静月を必要としているからだ……。
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