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「今晩は、お兄さんのクラスメイトの静月です。よろしくね」
静月がにっこり笑うと、魔法が掛かったようにすずいの頬が紅潮した。
何ぼーっとしてんだよ!
「よ……、よろしくお願いします!」
しかも、どもっちゃってさ、明らかに態度が違ってる。
何時もは『男の子なんて最低よ』みたいな顔して、俺を虫けらのように見てるのにさ。
母親にしろすずいにしろ、手懐け方は完璧だな静月、さすが外面王子よ……。
などと、心の中でどっぷり嫌みを言いながら、母親の言いつけ通りションボリその場に座ろうとしたら、以外な事に静月が俺を庇ってくれた。
「すみません、河野くんが今日の門限破ったのには僕に責任があるんです。僕が今先生に言われて河野君の補習授業を受け持ってるんですが、ここんとこ僕の都合で補習が出来ず、丁度今日時間が空いたので急遽、勉強をすることになってしまったのと、つい時間を忘れて教えてしまったことで、こんなに遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。」
「え?補習ですって?」
「お聞きになられて無かったんですか?河野君赤点取ってしまって補習授業が必須なんです。その手伝いを僕がさせて貰ってます」
「何ですって?!進級して早々に?赤点?」
「残念ですが……」
それを聞くなり、母親のげんこつが頭に飛んできた。
「痛ってーーーーーっ!」
「人様に迷惑かけないようにって、いつも言ってるでしょう?」
「かけてねーし!」
打たれた頭を撫でながら俺は涙目で反論した。
マジ痛かったし……。
「かけてるじゃないの!静月君に」
「かけてる?」
「いえ、全然」
「ほらー?」
静月は妹の目がハートになるような、俺だけが知っている外面用の、これ以上ない極上の笑みを零してみせた。
迷惑とか、かけてねーよな?
寧ろ喜んでるだろ、お ま え!
俺の言いたいことが分かったのか、静月は俺だけにわかるようニヤリと密かに笑った。
このやろぉ……。
「もう、ほんとにしょうがない子ね、今日は静月君に免じて許すけど二度と言いつけ破るんじゃないわよ。じゃないと本当にあなた窮地に陥るからね、おばあ様に言ってお小遣いあげるの禁止にしてもらうから」
げっ、バレてら…。
母親にキレられて小遣い貰えなかったら、近所のばっちゃん家へ行って貰ってたの知ってたんだ。
俺の唯一の財政源が絶たれると窮地に陥ってしまうじゃないか……、暫くは門限重視にしよう……。
それから俺らはリビングに向かったが、夕食は家で食べると丁寧に断る静月と、パイン材の広いテーブルを囲んでお茶をした。
何より学校での俺の様子をあれこれ聞きたかったのだろう、暇を告げる静月を引き止めて話を聞こうとしてる母親に捕まった静月は、俺の授業中の様子を隠し立てなく返答をすると、母親は時折あきれた顔を俺に寄越した。
だいたいが寝ているか保健室でサボっているかで、授業を聞いていないので赤点を取ってしまう……という事で、二人の結論は『小突いていいので起こす』と言うことで落ち着いたようだった。
ちっ、最強だなこの二人が揃うと……。
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