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「今日はダメだって言ったじゃん」 屋上でフェンスに凭れて座りながら、俺はジュースを飲んでいた。 昼食後、静月に呼ばれた俺は、あずみや将生に別れを告げてここに来ていた。 「俺が食事当番なんだよ、帰りに買い物して何か作らないと」 「へぇ、葵の手料理か」 「まあ、弁当買う事多いけどな」 と、手の内をあっさり晒す。 「だろうな」 静月がやはりそうか、って顔して微笑んだ。 まあ簡単なカレーライスくらいなら作れるが、作った所で不評だからしょうがない……。 妹に言わせれば、市販のルーを使ってどうやったらこんなに不味く作れるのだろうかと? 成長するにつれチーママ感が半端ない。 「まあ、そんなにヤリたきゃ自分でシコっとけ」 俺はニヤリと静月を見ながらそう言った。 「あのさ、そんなことしなくても相手には不自由して無いんだけど?」 ……そうだった、こいつは事が終わってスマホを開くと、いつも誰かから電話が掛かってくる。 「ですよねー、チャラ男だったもんなうっかり忘れてたわ、俺には他の奴とヤッたら殺すって言っときながら、自分は他の奴とヤるわけ?」 「葵、妬いてるの?」 興味深そうにチラリと静月が俺を見た。 「ねーーわっ!」 「葵が止めろって言ったら我慢するけど?」 静月の綺麗な顔が近づいてくる。 その美しさは、ちょっとドキリとさせられるほど、太陽の下でも際立ってんな……。 「好きにすればいいじゃん、俺も好きにするから」 「それはダメ、葵は俺以外の奴とヤッたら殺すよ?」 「何でだよ、俺がダメでお前はいいとかねーだろ」 「俺は葵の身体を他の奴と共有する気は無い。第一、葵は俺以外の奴とやってあんだけイケるの?」 「それは……」 無いよな……。 しかも共有って……、まず俺が男とエッチとか……無いよな、恥ずいこと言うなよ。 「俺も本当は葵が一番だよ、だから好きにしろとか言わないで、葵を待ってるから……」 そう言い、静月は俺の目を見ながら手を取り、自分の顔の側へ引き寄せると、揺れるブレスの上に軽くキスを落とした。 その悪戯な瞳と目が合うと、何故だかゾクゾクした……。 「これ忘れないで……、葵は俺のものだから……」 何だよ……、俺ら付き合ってるわけじゃ無いのに、そんなこと言うんじゃねぇよ……。 そして、そんな熱い瞳で俺を見るな……、ジワリと胸が騒ぐじゃないか。 静月の手が伸びてきて、俺の頬を掴むと唇を合わせてきた。 小鳥のように優しく食んでは啄む……、そして顔を離すと機嫌を伺うように俺を見ていた。 「俺……まず男は、お前以外とはダメだわ……多分……、女とヤッた時もあれほど強烈に感じたこと無いし……」 「それで?」 「それで……?」 何を言わせようとしてるのが分かっていて、オウムのように繰り返した。 静月が俺とエッチしながら並行して誰かを抱いてるとか考えると、何だかそれも面白くない……。 「俺と……居る間は他の奴は抱くなよ……」 「葵がそう言うのなら他の奴は抱かない」 なんか変な関係だな、恋人でも無いしセフレのように奔放でもない、なのにこんなにも相手を縛り付ける俺と静月の関係って何だろう……。 キスは深くならなかった。 俺らは一旦火が点くと治まらないからで、静月もそれは十分承知してるようだった。 静月が唇を放した時、物足りない自分がいた。 「そんな可愛い顔しないで、これ以上続けると本気スイッチ入っちゃうでしょ?」 そうだけど……、もう十分入りかけてる。 「おいで……」 そんな俺を受け入れるべく手を広げる。 何となく引き寄せられるように静月の胸に頭を埋めた俺を、ぎゅっと抱きしめる静月……。 「いつもこのくらい素直だといいのにね」 「死ね」 静月がクスクスと笑ったので頬にその鼓動が心地良く響いた。 そしてシトラスにフゼアが混ざったような、爽やかでいてちょっとセクシー系な香水が鼻を擽る。 それはこの頃なんだかすっかり安定の匂いで、この落ち着く感じがヤバい……、しかも眠くなりウトウトしてくる……。 「でも、そろそろ授業なんだよね」 「ねーむーいー、俺ここで昼寝するー」 「補習も殆ど受けてないのにこれ以上馬鹿になったらどうするのさ、ほらさっさと立って」 うぐ……、確かに……。 無情にも静月に腕を引っ張られ、俺は渋々屋上を後にした……。

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