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放課後になり、教室でみんなに別れを告げて駅に着いた時、丁度俺のスマホが鳴った。
『お兄ちゃん、今日さぁ、友達のあきちゃんが夕ご飯にカレー作ってくれるって、だからお兄ちゃんは何もしなくていいよ』
「マジ?」
『だけど、門限破らないでね、ママが機嫌悪くなっちゃうから』
「分かった分かった、間に合うように帰るわサンキュ!」
何てラッキーなんだろう。
良い子だあきちゃん!……て、誰だか知らないがありがとう!
でも今更静月に『夕飯作らなくて良くなった、エッチしよう』とは言えないし……、てか、絶対言わないし!
そうだ将生を呼んで久しぶりにゲーセンにでも行くか。
俺は早速将生電話を掛けたら、即答で『行く!』と返事が返って来た。
さすがノリがいいぜ!
「お待たせ!」
それからすぐに将生が肩で息をしながら、待ち合わせ場所まで走ってやって来た。
部活があった筈なのに、きっと理由をつけて休んだのかと思うと、ちょっと悪い気がしたが久々に将生とも遊びたかったので、それについては触れないことにした。
すぐ駆けつけてくれる将生は大切な親友だが、部活とかあっても有無を言わせぬように呼び出す俺は迷惑な友なのだろうか?
ーーーと、言うことも考えないことにした。
有り得るからな……。
「あずみは?」
将生が問う。
「母親と買い物に行くとかで帰ったよ、大河はデートね」
「ああね。じゃ、俺らで行こうぜ」
この頃、ずっと静月と一緒にいて、将生と遊んで無かったよなぁ。
「なんか食う?」
「ハンバーガー食いてー」
将生が心底腹減ったと言わんばかりに、通りに面したウインドウの中を覗き込んで言った。
下校時に俺らが屯するバーガー店だった。
「いいね、その後服とか見たいんだけど?将生時間ある?」
「おう、いいよ。俺も何か欲しいかも」
人気店内は客で溢れていたが、何とか席を確保することができ、店員さんがオーダーを取りに来てくれたので、スムーズに注文をすることができた。
「おまえ服は、練習ばっかでいらねーだろ、彼女もいないしな」
「葵、彼女居ないのはお互い様だろーが、あ、ナンパ用の服か」
「あーたーりー、やっぱ見た目重視っしょ」
「葵は制服でも十分モテルじゃないか、女子高前通るだけで何人からも声掛かるしさ」
「だって俺イケメンだもん」
するりと心の声が口から滑り出た。
「出たよ、自信過剰が」
「事実だし」
「まあな」
将生がクスリと笑った。
そうだよな……、俺は街を歩けば必ず逆ナンパされるイケメンだったのに、この頃の俺はすっかり静月に手懐けられて、爪を抜かれたライオン……いや、スマートなタイガー?
いやいやピューマとかカッコよくね?
てか、そんなことどうでもいいわ!
静月のこととか思い出したくもねーのに!
「うんうん、実際中学ん時から葵はもてたよなぁ」
「だろ?街歩けばうぜぇ程、必ずスカウトの声掛かるし、バレンタインとかチョコ持って帰れないくらいくるしさ、実際、誰が作ったかわかんないのって食べれないっての!」
「その言い方、葵じゃなければマジムカつく発言だけど、おまえキャラ的に助かってるよな」
将生はケラケラと笑った。
「どういう意味だよ」
「口ほどに大したことでもないと思ってるだろ葵は」
「えー、心底思ってるけど?」
「なんつーか、葵が言うとそんな嫌みに聞こえないんだよな、時々天然キャラ炸裂するからかなぁ」
「ほっとけーっ!」
俺たちは運ばれてきた、肉汁滴り落ちるようなジューシーで、ボリューミーなバーガーを頬張った。
「ま、静月が言うと完全に嫌みにしか聞こえないだろうけど」
結局、静月の話に戻るのか……。
「あいつもあんまそう言うことは考えてないと思うよ、寧ろ騒がれてウザいと思ってると思う」
「へぇ、静月って真面目そうでいて実際メチャクチャ遊んでるし、クールなイメージなんだけど」
「あー、そのまんまだと思う」
中身はエロ大王だけどな……。
「葵に勉強教えるとか、どんな風だろうか気になるわ」
「普通だし、時々小突かれるけどな……」
「おまえ、頭悪いからなぁ」
将生は再び声を出して笑った。
「おまえが言うか!」
頭については将生も似たようなものだけど、こいつはスポーツ奨励枠なわけだし、成績はさほど気にしなくていいわけで、呑気にバーガー食ってらたいいけど、俺はそうはいかず将来的には大学進学を目指したいが、今のままでは無理なわけで……、本来なら静月の補習はとても有難いものだが、実際の補修と言えば『エロ補習』しかしておらず、意味の分からない方程式など更にチンプンカンプンになる前に軌道修正してもらいたいものだと切に思うが、まあその……静月とのエッチも……んーと、悪くないかもで……(ついに認めてしまった……)、えーと……どうしても引っかかる男同士だと言うことや、将生達とではなく、あの静月と誰にも言えない秘密を持ったことで、親友の将生に後ろめたさもあるし、どっちにしろ色々悩むこの頃である……。
そんな将生とブティックに向かい服を選んだり、ゲーセンで遊んだりと、久しぶりに他愛ない会話やふざけ合いながら空が薄暗くなるまで楽しんだ。
気が付くと外が暗くなり始めていて、時計を見ると六時半を回った所だった。
「やっべ……、将生俺そろそろ帰らないと」
「んだな、お前の母ちゃん厳しいからな」
そう言いながら、俺らはゲーセンから出て歩道を歩き始めた。
「んじゃ、またな」
俺は手を振り、駅に向かうため将生に背を向けて歩いて行こうとした所、後ろから呼び止められた。
「葵!」
「ん?」
「ひとつだけ聞きたいことがある……」
「なに?」
「その……」
将生は言いにくそうに、視線を少し逸らしてしまう。
「なんだよ」
「その……葵と静月は付き合ってるのか?」
「え?!」
ドキッ!!!
心臓が騒いだ……。
「みんなが噂している……」
「付き合ってるとか……無いわ……」
付き合ってはいない……。
「そうか……」
「何?どうしたんだよ……」
「最近さ、俺らと遊んでくれないからさ……、葵は静月とばっか一緒に居てさ……」
ホッ、拗ねてんのかこいつ、可愛いぞ将生。
「しょうが無いじゃん、補習受けないと俺追試とか無理だしさぁ、なんだよー将生、寂しいなら寂しいって言えよ!」
俺は身体で将生にぶつかった。
すると将生にガシッとハグされた!
え!?
なんだなんだ、そんなに寂しかったのか!
「葵……、よく聞け……」
「おん?」
何時もと違う何か少し緊張したような気配を感じ取って、不安になった俺に将生は言った。
「俺、お前の事好きなんだ」
え???
「あ、友達だもんな、俺も将生が好きだし」
「そうじゃなく……」
「え?」
「お前のことが好きなんだよ……、友達としてじゃなく……恋人として」
な、な、な、何だってーーーっ?
俺の事……す……好きだと?
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
俺はどんな顔してそんなこと言ってるのだろうかと、将生の肩に両手をついて将生を遠ざけ顔を見た。
その目はやたら真剣で、そこには冗談の欠片も居当たらなかった。
「俺お前が女子とばっか付き合ってたから男に興味無いと思っていたんだよ、だから言えなかった……」
まじかーーーーーっ……。
これ現実?
親友と思ってた奴から告られるとか……、眩暈がしそうだ……。
「でもこの頃お前見てて静月となんかあったなって……あっただろ?」
「え……」
うぐぐ……。
あった……かも……?
「ほらな……」
将生は悲しそうな顔をして俺を見ていた。
「でもきっと俺じゃダメなんだよな……、静月だからこそお前を奪う事ができたんだろう……」
なんだよ奪うって……俺を奪うって……、なんかいやらしくないか?
「将生……俺は……」
「分かってる、付き合って無いって言うけど見てたら分かるよ、お前ら仲良しだもんな、割って入るつもりはない、ただ俺の気持ちを知っておいて欲しいんだ」
「……」
親友だと思っていたのに……、そんな風に思ってたのか?
しかも、知っておいてって……、そんなこと言われてどうすればいいんだよ!
俺はゲイじゃないんだぞ!
「将生……俺……お前の気持ちに答えられない……俺元々男とか興味なしい……そういう風な目で見られない……」
「分かってる、お前は静月が好きなんだろう?」
「だから……好きとか嫌いとか考えたことないし、補習教えてくれてる関係だよ」
寧ろ嫌いだし……。
「隠さなくていいよ、同類は俺にはわかるんだ。悔しいけど……」
「将生……」
俺にはわけわかんないぞ……。
「ごめんな驚かせて……」
「いや……こっちこそごめん……」
「お前は謝らなくていいよ、俺の気持ちが負担にならないよう努力するからごめん……」
将生はそう言うだけ言って、バス停へと歩いて行った。
ほんと驚いたな……、将生が俺の事好きだったなんて……明日からどんな顔して会えばいいんだよ……。
混乱した頭で家に帰った時、結局は門限に間に合わず、すずいが母親に言いつけてげんこつを貰った踏んだり蹴ったりの俺だった……。
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