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次の朝、将生はつもと変わらず、何事も無かったように『おはよう』と言って教室に現れ、前の席に着いた。 うだうだ悩んでいた俺に心配をかけないようにしているのか、昨日の話の素振りも一切見せないし、TVのサッカーの試合がどうのこうだと嘆いていた。 うん、その方が俺も楽だし将生には悪いけど、俺はそんな気は全くなくて、キャパも少ないし対処のしようがないので、このままでいさせて貰う……。 ごめんな将生……。 そんな微妙な気持ちを知りもしないあずみは、昨日一緒に行けなかったことに不満を漏らし俺を責めたが、話が聞こえたのだろうそんな目で俺を見ていたもうひとりの人物、静月が隣の席から冷ややかな目線を寄越していたので、俺は気付かない振りをした。 ああ、めんど……。 一々、おまえに釈明しないといけない理由は無いだろ。 てことで、無視していたら放課後になって、教室を出ようとした俺に後ろから声を掛けてきた。 「葵、補習は?」 「今日はダメ、俺夕食当番だから」 「昨日も言って無かった?」 「俺が週2、妹週1、弟週1、後は母親、そのパターン」 「でも昨日は遊びに行ったんだ?」 「え……」 静月が目を細めて疑いの眼差しを送って来た。 休憩時間の会話……、聞こえてるよな……あずみ声でかいし……。 「昨日は妹の友達が料理を作ってくれるってあれから電話あったんだよ、で、暇になったから将生と出かけたってわけ」 「俺じゃなく部活してた奴を、わざわざ呼び出したんだ……?」 「う……」 お前を呼ぶってことは、”エッチ”しようってことじゃないか、できるかーっ! 「たまには将生とだって遊びたいし……」 「そうだね」 ほっ……、意外と物分かりいいじゃん。 「一昨日、精子使いきっちゃったしね」 ぶはっ! 「おい!」 廊下で話す会話じゃねーだろ! 幸い廊下には遠くに人は居たが、近くにいなくてホッとした。 「……とにかく……、今日は帰るからな」 もうこの場を離れたい、なんでそういうこといちいち言うんだよ! 「手伝おうか?」 え? 「ウケる、お前が料理とか無いだろ」 俺はケラケラ笑った。 こいつん家とか家政婦さんが何でも作ってくれるのに、料理とかしたこと無いだろよ。 「俺上手だよ」 そう言って、余裕で静月は微笑んだ。 「嘘つけ」 お坊ちゃまが……まさか……ね。 俺は端から相手にしてなかったが、二人で入ったスーパーマーケットで、手際よく材料をカートに乗せる静月を見てると、本当に料理できるんじゃないかとさえ思えてきた。 「葵、いちご好きだったよな?買う?」 「うん、でもなんで3パックも買うんだよ、めちゃ高いじゃん!」 一パック千円以上もするやつ買うか? 「大丈夫だよ、カードで払うから心配しないで」 「いやいや、それはダメだろ俺んちの夕食だし」 「俺も食ベたいし、苺も葵も」 ぐへっ!! 「黙れ!」 静月は俺の耳元で、囁くような振りしてキスをしてきた。 それを見ていたレジの店員さんは、一瞬ぎょっとした顔で俺らを見たが、すぐに営業スマイルを取り戻して仕事に集中しようとする、だが静月と目が合った瞬間瞳を輝かせた。 はいはいそうだよな……、誰もが目を奪われる程に静月はかっこいい。 この俺様が唯一ライバルとして認めた男だ。 その面は見惚れるほど整っていて……え、男が男に見惚れるとかないよなぁ……。 まったくもう……今何思った俺? どうかしてる……。 そんな静月は俺が支払いしようとしても拒否して、自分の財布からカードを取り出すとスマートに支払いを済ませ、重い荷物を持ちながら俺の後を付いてくる。 マジで料理作る気か? でも、料理なんてできるのか? 「葵って見てて飽きないな」 スーパーから出て、自宅へと歩く道すがら静月が笑って言った。 「なんで?」 頭の中で静月の事をいろいろ考えてたから、買い物の礼も言って無かったことに気が付いた。 「表情がコロコロ変わって面白いよ」 「チッ!」 「おまけに見かけに似合わず悪態も吐くし」 「そーだよ、育ちが悪くてごめんな、お前はお城の中の王子様かよ」 「いいね、それ、じゃあ俺が葵の王子様ってことだよね?」 「なんでそうなるんだよ、俺男だし!王子様とかキモ」 「ほんと素直じゃないな、俺に抱かれれてあんあん啼く癖に」 「お、おまっ……クソ腹立つ!」     この人通りの多い道でそんなこと言うな! この男、なんでこんなにお喋りなんだろう、教室のクール面に戻れよ!             「夜まで待ってて」 そう意味深に耳元で囁いた。 「うるさい!」 夜とかねーわ! エロ王子いい加減にしろよ、飯作って貰ったらさっさと帰らそう。 恥ずかしさと憤慨でごちゃ混まぜになった思考を振り払うように、俺は足早に家路を急いだ。

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