96 / 213
96
エロ王子の手料理とか、すっげぇ不安があったんだが、そんな心配も家に帰って静月が包丁を持った瞬間かき消えた。
「簡単な物しか作れないけどね」
そんな事を言いながら、手際よく玉ねぎを切り刻むと、ミンチを炒めてあっという間にミートパスタを人数分作った。
まじか……。
「すっごーーーーい!!!」
テーブルに座っていた空は勿論、すずいは目をハートにしながら喜んでいる。
まあね……、静月はイケメンだし、料理が上手いとなればもう溜息ものだろう。
おまけに頭も家柄も良くて非の打ちどころがないのは事実だ。
そもそも同じスタートラインに立とうとした俺が馬鹿だった……、なんて少々卑屈になりながら目の前に差し出されたパスタにフォークを刺す。
え?
美味いじゃないか……!
まじか……。
「おいしい~~!」
すずいと空が素直に感想を述べる。
「ありがとう」
静月がにっこり微笑むと、すずいの顔がデレっと綻ぶ。
おいおい、俺にそんな顔したことないよな?
俺がムスッと食べていたら、静月が不味いのかと聞いてきた。
「いや……」
「じゃあ、美味しそうに食べてよ」
「お兄ちゃんが無口の時は美味しいと思ってる証拠だよ、不味い時はぶつぶつ文句言ってるから分かりやすいの」
すずいがそう言うと「ああ、そうだね」と言って、静月がクスリと笑った。
そういう知ったかぶりは止めて欲しい、だいたいお前とは最近知り合ったばかりじゃないか、俺の何が分かるってんだ。
「それに素直じゃないしね」
「そうなの!お兄ちゃんたら絶対ツンデレなんだから」
「誰がデレたよ、うっせーなブス!」
「ひっどーいぃ!」
俺は皿の残りを一気に掻き込んだ。
「お兄ちゃんて家ではいつもこうなのー、最悪でしょ?女の子と一緒の時はデレッデレしてるのにーっ」
おまえ、静月の前でそんなこと言うなよ、ほら見ろ、顔は笑ってはいるが目が笑ってないじゃねーか、こいつ機嫌悪くなるとS度5割増しになって怖いんだぞ!
「そうだね、学校ではチャラくて有名だからね」
「でしょう?一度痛い目遭うといいわ」
おまえら……。
「もう遭ってるかもよ?僕に酷い目に……」
「え?」
「え?」
俺とすずいが同時にそう言い、俺は焦って静月の顔を見た。
何言いやがるんだぁ?
余計なこと言ったら殺すからな……と、睨みを利かす。
「補習でバシバシ小突かれてるよ」
……、それな……。
「お兄ちゃん見かけと同じく馬鹿だからね」
「おい!」
「今の学校入学できたのって、てっきり裏金使ったと思ったもん」
ぐはっ!
「アホか!家にそんな大金ねーわ!」
「お兄ちゃんは小学生の時、成績は満点だったってママが言ってたよ」
空~~~、やっぱお前は可愛い奴だ!
でも、口の回りにミートソースを着けた顔は笑えるけど、自分の幼いころを見るようで頭を撫でたくなる。
「でも中学で女子に興味がいっちゃってからは転落人生よね~?」
「おま……余計な事しゃべるんじゃねーよ!」
「大丈夫だよ、僕がちゃんと補習して成績上げるし、女子に目が行かないよう見張ってるから心配しないで」
静月はそう言ってニコリと微笑んだ。
そーだろよ、隣の席から冷ややかな目線を送ってくるもんな。
しかし、補習したのは何時のことだよ……、女子には……今のところ目は向いて無いけど……、静月と同様俺は今、面白い遊びを覚えてしまったからな……。
遊び……だよな……。
「こんなチャラい兄ですが、どうぞよろしくお願いします」
珍しくすずいがペコリと頭を下げると、静月も何時もの超絶誰をも虜にする、甘い仮面スマイルで微笑んだ。
「こちらこそ、よろしくね」
「お兄ちゃんはきっと女で人生狂わされる人だと思うの」
おいーーーっ、まだ言うか!
静月が珍しくプッと笑った。
そこでウケルか、このヤロー。
「うるせぇなぁ!すずい、静月が作ってくれたんだから後片付けはしろよ」
「やるよ。お兄ちゃんこそ何もしないのに偉そうなんだから」
「だって、俺シェフ連れて来たろ?しかもイケメンだ」
「う……うん……そうだよね」
イケメン効果あるあるだな、照れるすずいを残して俺は自分の部屋に行った。
どいつも此奴も静月の裏の顔を知らないのに、褒め称えしかも騙されてるとか……、それが無性に悔しかった。
しかも俺に対しては超ドS級だ、そこ重要。
暫くして、部屋で制服を脱いでいたら、静月がデザートのイチゴを持ってきてくれた。
「妹さん葵にそっくりだね」
「手出すなよ?」
静月はケラケラと笑った。
「葵がいるのに出すわけないでしょ?葵は俺の姉気に手出したけど」
う……、今それを言うか?
それについては何も言えない……。
「まさか……、まだ怒ってるとか……無いよな?」
「怒ってないよ、散々、楽しいお仕置きさせてもらったからね」
ニヤリと悪魔のように静月が笑った。
だろうよ……。
あれから俺の苦悩の日々が始まったんだよ!
ジェットコースターのように浮き沈みが激しい毎日で、それが全て静月に操られてるとか、考えただけでもゾッとする。
そんな考えを吹き払うように、俺は静月の持ってきてくれたイチゴを口に含む。
「甘い!うま……」
言いかけて、いきなり静月の唇に口を塞がれる。
「やめ……ろよ……」
顔を逸らして静月の唇から逃れた。
「言ったでしょ?苺も葵も食べるって、俺欲張りだから」
あれは宣言だったのかよ。
でも今日は絶対ダメ、俺の部屋で静月とエッチとか……、ダメダメダメと、拒否しようとしたらそのままベッドへ倒された。
俺こんなに非力だったのか?
いやいや、突然だったからな……と思い直す、じゃないといろいろ悔しい。
ともだちにシェアしよう!