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「お兄ちゃん、昨日静月さん遅くまで居たんだね」
何時もの朝は、三人の歯磨きから始まるが、歯ブラシに歯磨き粉を乗せながらすずいがそう言った。
隣では、相変わらず酷い寝ぐせのまま、黙々と歯を磨いてる空がいた。
まあ、半分寝てるだろうなこいつ。
そう、昨夜静月は母親が夜勤で居ないと知ると、零時近くまで俺を抱き続けて帰って行った。
バスルームに向かう途中で種付けされた白濁が、太ももを伝わって零れ出した時には、流石にギョッとなったが、それも又、気怠い心地良さと共に俺の心と身体を満たしていた。
そう、俺は別に後悔などしていなくて、寧ろエッチを楽しんだと思えるようになっていた。
だから今朝は心が軽かった。
「何がいいんだか、帰らないんだよあいつ」
なので、俺がいいんだろうけど……とか、朝から言えちゃうバカでーす。
まあ、心の中でだけど。
「それはないでしょー、勉強教えて貰ってるのに」
「あ……ね」
そうだった、そういう触れ込みだったわ。
いけないことをしてたとは、1ミリも疑わない顔で俺を非難する。
「静月さんて雑誌のモデル並みにかっこいいんだもん大歓迎しちゃう。でも今晩はお兄ちゃんがお泊りなんでしょ?」
え……。
そういやそうだった……、でもあいつ何も言って無かったよな……。
「うん……でもわかんない……」
「いいなぁ、静月さん家ってお金持ちなんでしょ?凄い豪邸だってママ言ってたし、すずいも見てみたい~」
「やめとけ、あんなの見たらここがウサギ小屋だって思い知らされるぞ、静月の部屋だけでも俺の部屋の4倍くらいあるし」
「げっ、何それ!じゃあ家に来て驚いてるよね……余りの狭さに……」
「だろうよ……」
特に何も言わなかったなぁ……、まあ、俺の部屋に入るなりヤルことしか考えてないエロ王子だからな。
「静月の爺さんは大病院の院長だけど、伯父さんは国会議員だし、母親の実家は不動産でビルをいくつも持ってる超金持ちらしいぞ」
「げっ、私住む世界が違う人に、お兄ちゃんの世話を頼んじゃった」
そうなのだ、あいつは街を牛耳る程の権力を持つセレブ家庭に育ち、高校が一緒でなければ全く住む世界が違い、こうやって家に来るまでの親交を持つことは無かっただろう。
今の俺らは子供の火遊びのように、無分別で自由な関係……、だけどそれは脆く、いつ崩れるかもしれない……。
「調子に乗ってペラペラ喋るからおまえは」
「ごめんなさい……」
そうだよなぁ……、静月がこんなウサギ小屋まで料理を作りに来たのは、単にエッチがしたいからだろうがご苦労なことだ。
静月の気まぐれは何時まで続くのだろうか……、まあ飽きるまで付き合ってやろうじゃないか、俺も気持ち良いことは大好きだ。
「兄ちゃん、耳から血が出てるよ?」
「え?」
隣で歯を磨いていた空が、口から歯ブラシを出して不思議そうな顔してそう言った。
鏡で見ると、左の耳が瘡蓋になりつつあるが少し血が滲んで見えた。
これは昨日静月に噛まれた後だ。
俺が意識が飛びそうになるくらい感じまくっていて、思わず目を閉じてしまうと、静月は自分を見るよう促す為にガブリと噛む癖があるのだ。
指摘されて急に恥ずかしくなった俺は、髪の毛で必死に隠す。
「クローゼットにぶつけたんだよ」
「兄ちゃん気を付けてね」
苦しい言い訳でも、空はあっさり信じて、歯ブラシを口に再び突っ込んだ。
寝ぼけ眼のトロンとした瞳は、父親似なのか虹彩が緑がかっていて、長い睫毛を瞬かせながら見上げる姿はほんと可愛い。
それぞれが俺を心配してくれている幼い妹弟達は、俺よりずっと優しくて、いつの間にか成長してるんだなと思う、日差しが眩しい洗面所での出来事だった。
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