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あれから幾つかの店を回ってその帰りに、腹が減ったので近くのカフェで何か食って帰ろうと寄った店で、店員に案内されて中へ入って行く途中、静月と潤が窓際の席で仲良さそうに食事してるのが目に入った。
まじかよ……、最悪……。
俺の心臓が急に煩く騒ぎ出す。
今更出るわけにもいかず、気が付かない振りをして案内された席に着いた。
勿論、俺は彼らが見えないよう背を向けて座るよう視界から遮断した。
なんか急で驚きすぎて、心臓がバクバク音を立てている。
こんな所で会うとか、何この確率……良すぎじゃね?
将生も二人に気が付いたらしく、戸惑った様子で密やかに俺に告げてきた。
「おい、あそこに静月がいるぞ」
「騒ぐな将生……、面倒だか気付かぬ振りしろよ」
「まあ、そうだな俺あいつとあんま関係ないし、隣のあれは新しい彼氏……」
と言いかけて、将生がハッとしたように、気まずそうな顔をした。
ああチクショウ……食事がマズくなる……。
さっきまであんなに楽しかったのに、気分が一気に下降した。
俺の様子に気付いた将生が、心配そうな顔をして言う。
「なあ……店変えていいんだぜ?」
「いいよ……気にしない」
「その割に泣きそうな顔してるけど?」
「バカ言うんじゃねーよ」
うん……、ちょっと……なんて言うか、……やはり二人が一緒に居るところを見るのは、……ショックなのか……、胸がチクチクする。
「強がってる葵もかわいいよな」
目の前でニコニコ笑ってる将生を殴ってやりたかったが、なんせ今は目立たないよう大人しくしていよう……。
多分、二人は俺に気付いてないだろうが、気付いたところで会話とかしたくない。
「とにかくさっさと注文して食って帰ろうぜ、俺門限あるし」
「良いとこのお坊ちゃんかよ、まあ葵はそんくらい厳しくないと自堕落に拍車が掛かるからな」
「ほっとけ」
俺は心配かけないように微笑んで見せたが、将生の視線は俺の後ろに釘付けになっている。
「おい、あの二人公然とキスしてるぞ」
将生が興奮したように言うので、思わず振り向いてしまったら、丁度顔を離して真正面を向いた静月と目が合ってしまった。
ドキッ!
うわっ……、なんつータイミング!
思わずそっぽ向いてしまった……。
あー嫌だ嫌だ。
静月のキスシーンを見るなんて、しかも潤と……俺の心臓が壊れそうに鼓動を繰り返す。
ほんの二週間前までは何の接点も無かった俺と静月だったが、急激に近付いたと思ったら、あっと言う間に離れてしまった。
全ては元に戻った筈なのに、不安定に揺れ動く感情に心が追い付かない……。
注文をしてテーブルに料理が運ばれるまで、時間が止まったように長く感じた。
店内の喧騒も、将生との会話も虚ろで耳に入って来なかった。
ただただ、さっさと食べて帰りたい……、この場から早く去りたかった……。
「だーかーらー、泣くなって!」
「え?……泣いてなんか……」
言いかけて将生が指を伸ばして俺の頬を摩り、そして差し出したその指先は光っていた。
まじか……。
え……、俺泣いてんの?
思わず手で涙を拭う。
やべ……、自覚なしに涙流すとか……?
二人のキスシーンを見て、かなりショックだったのは認める……、だからって子供のころ以来、泣いたことのない俺が泣くか?
いや、泣いてるらしいが……。
どうして涙が出るんだ……?
丁度、注文した料理が運ばれて来て、テーブルに置かれた。
「食えよ……、そんで早くここを出よう」
「……うん……」
俺は将生の言葉に従いハンバーガーを口にしたが、それはゴムのように噛んでも噛んでも喉を通らず、とにかく喉の奥にコーラで流し込んだ。
時折、将生がジョークを言って俺を笑わせようとしたが、到底そんな気にもなれずに、とにかく食べることに集中したが、結局は半分も食べずに残して席を立って出て来た。
勿論、静月や潤を無視して横を通り過ぎ、外へ出た時には大きく深呼吸しなければならなかった。
胸が張り裂けそうに痛い……、いつの間にかそんなにも静月は俺の心を鷲掴みにしていた。
二人の親密そうな様子は、俺に思った以上のダメージを与えて、体中から血の気が失せさせ、足元を覚束かなくさせた。
今まで何人もの天使ちゃん達と付き合って、何度か別れを繰り返してきたが、こんな感情今まで無かった。
不思議な程に、こんなにも苦しい思いは初めてだ。
もしかして……これは……。
恋というものなのか……?
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