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もう忘れよう……、そう思っても、気付けばなぜか目が静月を追っている。 過去に追いやろうとしても、強烈すぎてあの日々が忘れられない……。 この胸のもやもやは何だろう……。 教室では隣に居るから意識せずにはいられなかった。 昼食になって何時ものように飯を食ってたら、瑛斗と静月の友達の一人である隣の組の啓介が、トレイを持ってやって来て、俺の目の前につまり将生の横に座った。 珍しい客にみんながどうしたのか戸惑っている。 啓介は確か祖父か父親かが、警視総監か警視監だとか、とにかく偉い人だという噂を聞いたことがある、なのに見てくれはとても良いとこのお坊ちゃまには見えなくて、長い金髪に前髪をピンで留めるような軟派さだ。 まあ、うちの学園は裏金上等、見た目金髪だろうが制服を着崩そうが、成績次第で進級できる。 ただ卒業は至難の業で、どんな手口も通用しない、だから卒業できる者は正真正銘の実力を兼ね備えている精鋭になる。 なので今の俺のように底辺をうろつく者は将来が危ないのだが……、俺は窮地に陥らないと頑張らないタイプなので、うん……明日から頑張る……。 まあそんなことはどうでもいいが、そういう分けで一緒に飯を食うとか交流は全く無かったわけで、みんなが驚くのも当たり前だった。 なんの気まぐれなのか、この二人はニコニコ微笑みながら座ってやがる……何なんだ? 「ねぇねぇー、静月どうにかしてよー」と瑛斗が話しかける。 はて? 「最近、話しかけてもうわの空でさ、全然取り合ってくれないんだよね」 瑛斗がつまらなそうに文句を言う。 そりゃおまえ……、あいつと……潤と上手くいってるからじゃねーの? そんなこと俺に言われても困る、もう関係ねーんだし。 「ねー、君たちエッチしてるの?溜まってるんどよきっと」 ぶーーーーーっ!!!! 食べかけのオムレツを吹き出して、周りの奴が『汚ったね~わ!』と飛び退いた。 「おま……な……、何言ってんだよ!」 「静月から身体の相性抜群て聞い……んぐぐ……」 俺は慌てて瑛斗トレイの上にあったパンを、そのお喋りな口に詰め込んだ。 何言いやがるんだぁこいつは! 余計なことをペラペラと、こいつに喋ってんじゃねーぞ静月め! 「ぐぐ……」 そして素早くテーブルを回り込むと、瑛斗の首に腕を回しながら耳元で囁いた。 「それ以上言うと、長瀬が保健室でセクハラ繰り返してるってチクるからな」 「なんだよそれー!!!」 瑛斗が大声で叫んだ。 ふふふ、俺の勝ちだ。 瑛斗は奥歯をキリリと噛砕したような顔をして俺を睨んでいたが、素知らぬ顔をしてやった。 「僕も居るんですがー?みんな、んちゃーっ」 啓介が見た目通り、手のひらをヒラヒラさせて軟派な挨拶を寄こした。 珍客に、一同が瑛斗と啓介を見て、それから俺を見るのが分かった。 その目は何時から知り合いなの?って風で……、いやこいつとは今だけど、瑛斗にしても友達とは呼べないだろう……。 まあ一連の流れに目を丸くしてる、大河に将生、そしてあずみの三人は、口をぽかん状態で聞いている。 「なにその宇宙人を見るような目つきわぁ~、凌駕の友達は俺の友達~?あ、間違った。凌駕の彼氏は俺の友達~っ」 ぶっーーーっ!!! 「ええーっ!!!やっぱ付き合ってたのか?」 あずみが驚いて声を出した。 将生も大河も同じく驚きを隠せず声も出ないようだ。 「ば……バカ言ってんじゃねーよ!付き合ってねーわ!」 まったく、どいつもこいつも何言いやがるんだ。 「あれ?違った?最近、凌駕が珍しくご執心だしねぇ。」 「補習もう終わったから、関係ねーわ」 「葵ちゃんたらそんな寂しいこと言ってーっ、凌駕、葵ちゃんにぞっこんじゃないかぁ」 「殺すぞ」 俺はヘラヘラ笑ってる啓介を睨んだ、マジその話やめて欲しい。 「そんくらいにしときなよ啓介、友達みんな引いてるよ」 そう言って、瑛斗がクスリと笑った。 大河は完全に引いている、その証拠に目を丸くして俺を見ていた。 そうだよなぁ……、何時も横で天使ちゃん達と遊んでる様を見てきた大河は、俺が絶対ノンケだと疑わなかったろうよ……。 まあ、この頃の言動と行動はかなりバレバレだったろうが……。 洒落になんねぇ……、漸く静月との関係を誤魔化せたと思った所だったのに……、ぶり返されたわ。 「お前らなんでこっち来たんだよ、向こうへ行けよ」 俺は瑛斗と啓介に向かって、素っ気なくそう言った。 ウザい事この上なく、勿論本心からだ。 「この頃の凌駕機嫌悪いから、ご飯食べたらさっさと屋上行っちゃうんだもん、つまんないからさー」 「て、こっち来んなよ!」 「そんなぁ~、つれないな~、綺麗な葵ちゃんと一度話たかったんだよ~っ」 なんか殴りてぇこいつ……。 「じゃあ、目的叶っただろ、向こうへ行け!」 「うわっ、何そのナイフのような鋭い言葉!きっと凌駕は葵ちゃんの発する言葉の、切られるようなゾクゾク感に萌えたんだろうなぁ~」 意味わかんないし……。 「この前、凌駕と一緒の時、レストランで潤に会ったんだって?」 急に真面目な顔した瑛斗が話に入って来る。 「うん」 「あれからさ、潤から連絡あったそうなんだけど?それもさ『元さやに戻りたい』って」 そうなのか……、そういう事か……だから連絡も絡みも一切途絶えたんだな……。 でもなんで今俺にそれを言うんだ、聞きたくねーし。 「知らねーし、でも良かったじゃん」 「本気でそう思ってんの?」 「そうだよ」 「つまんなーい」 瑛斗は心底がっかりしたように肩を竦めて見せた。 「知らねーけど、いいじゃんあいつが……前に言ってた静月の惚れてた奴ってことか……?」 「かなー?……まあ、あいつ性格悪いから、バカで天然な君のほうがいいとは思うけどね」 「おい……殺すぞ」 どんなイメージよ俺……、まあ学年最下位を争ってる身ではあるが……。 「合ってるな、バカで天然……」 「うん」 これは大河とあずみの呟きである……オイ! 「潤って誰?」 将生が食いついてくる。 「凌駕の元カレだよ、あいつ最低なんだよ。凌駕ともう一人と二股掛けててさ、それを知って凌駕は呆れて別れたんだけど、いざ凌駕が他の誰かと付き合ってるの見たら癪に障るという……、とにかく最低な奴だよ」 愛くるしい表情で静月を見る姿は、本当に可愛くてそんな風には見えなかったけどな。 「静月が二股かけられてたとか、意外だな」 「うん、まあ、元々潤は付き合ってる人がいるのは知ってたんだけど、別れたって聞いてたから凌駕は付き合い始めたんだけど、実際は別れて無かったらしく、最後の方がぐだぐだになっちゃってさぁ……で、心機一転凌駕はここにきたわけよ」 「へぇ……振られたんだ」 あの静月が振られるとかあるんだな……。 「そうなるのかなぁ……、凌駕はああ見えても一途なとこあるしね……、でもきっぱり決別してここに来たはずなんだけどなぁ……」 瑛斗は意味有り気に、俺に向かってニコリと微笑んだ。 いや、もう俺関係無いから……、それに二人の出会いは分かったから、もうそれ以上聞きたくないわ、瑛斗にはそのお喋りな口をそろそろ閉じて欲しかった。 それにさっきまでヘラヘラしてた啓介が、急に黙り込んでしまったので、俺はそっちの方が気になった。 こいつが寡黙になると、なんか言われぬ威圧感が増すな、どうしたんだろう……。 「と、言うわけで僕は君を応援してるよ」 「うるせぇ、何度も言うが、俺と静月はそんな関係じゃないし」 「エチ友って言いたいんでしょ?」 「ちげーわ!」 「潤てさ、僕が凌駕の回りをうろうろすると鬱陶しそうに見るんだよね、そんな心の狭い奴と付き合うなんて幼馴染としては絶対に許せない。だからとにかく、君には頑張ってもらいたいんだよ」 「それは単におまえがあいつのことを嫌いだからってことだろ?」 「そうとも言うね」 瑛斗は再び、恍けたような笑みを俺に寄越した。 そんな都合よく行くかよ、もうほんとみんな自分勝手な奴ばかりだ。 静月はいきなり俺の前に現れたかと思うと、一瞬、濃く深く交わって、台風のように去って行ってしまった。 そして俺の中をかき回して元さやに戻ったわけだ……、良かったじゃん。 俺と遊んだのも気を紛らわす為で……、分かってはいるんだけど、この失望感はなんなんだ……。

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