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腕を掴んでる手の主を見上げると、そこに居たのはまさかの……、今俺が最も面と向かい合いたく無かった相手、……静月だった。 「な……んだよ……」 俺を捕らえて睨みつけてくるその横暴な瞳は、矢のように射貫く強さを秘めていて、心をグラリと揺さぶる力を持っていた。 そして、どうして今頃になって目の前に現れたのだろうかと疑問が浮かんだが、久しぶりの至近距離で見る相変わらず恐ろしく綺麗な顔に惹きつけられたと同時に、……何故だか俺の心に反発心がむくむくと湧いてくるのだった。 「ちょっと目を離したら、やりたい放題だな葵」 「意味わかんねぇ、放せよ……」 将生の家で泊まったことを言ってるのだろうか? やはり朝の話は聞こえてたよな……。 だが、静月に文句を言われる筋合いはない。 手を振り解こうとしたけれど、放す処か更にきつく捕まれながら、奥の薬品が保管してある小部屋まで引っ張られ、扉を開けると中へ強引に押し込まれた。 うおぃ! 相変わらず見掛けと違い乱暴だなおまえ。 通常なら教師がここで実験の準備をする部屋だが、今は誰もいない。 書類やガラス製の実験用具が置かれた大きなテーブルの前に俺は追いつめられると、今度は手首を掴まれ目の前に高く持ち上げられた。 「葵、ブレスレットは?」 そう、俺の手首に静月から貰ったブレスレットは無い。 その顔は完全に怒ってるよね? 目を細めて俺を睨んでいるが、俺は返って小気味がいい。 「そんなの、とっくに捨てたわ」 そう言うと、いきなり肩を押されて大きな実験テーブルへと押し倒され、その拍子に俺はガツンと音をたてて後頭部をしこたま打った。 「……つ……痛っ……てぇ……」 涙目になりながら静月を睨み返すも、平然とした顔で俺を見下ろしている。 「勝手に捨てるとか、あり得ないよね」 「知るかよ!」 そう言い捨てて、起き上がろうとしたら額に手を当てられ、再びテーブルに頭を押さえつけられた。 また、ゴツンと鈍い音がした……、痛い……。 「生意気」 眉間を寄せて見下ろす静月の顔は、容赦ない雰囲気を醸し出している、今の静月に何を言っても無駄のようだ。 怖いよ静月……? 「お前、昨日あいつとヤッたのか?」 「はぁ?」 いきなり何だよ、やってないけど……、だからってお前には関係ないだろ、怒りが再び沸々と湧いてくる。 しかし、静月からいつもの香水がふわりと香り、俺の記憶を呼び覚まされて、甘い断片が脳裏を掠めた。 クソッ……思い出してる場合か……、当然だけど意地っ張りな俺は、そんな弱みをこいつに見せたく無い。 「言えよ」 俺が黙っていると、襟元を掴んで身体を揺さぶる。 暴力反対……。 「なんでそんなこと、お前に言わなきゃいけないんだよ」 「葵は俺のモノだと言ったろう?」 「馬鹿じゃねーの?何様だよ、もうお前には関係ないだろ」 「もしかして、しばらく放っておかれて拗ねてるの葵?」 なんて傲慢な奴、だけど……静月の言う通り拗ねてるのか俺? よく分からない……。 ただ、この至近距離にドキドキする自分が腹立たしくて、つい静月を怒らす言葉が口に出てしまう。 「てか、お前なんかどうでもいいし」 静月の顔が見る見る険しくなる。 「セックスに溺れてる時はあんなに従順なのに、身体で思い出させて欲しいの?」 「ちげーし、おまえ頭おかしいんじゃね?」 「葵こそ、自分で言ったことはちゃんと覚えておけ」 襟元をきつく握り絞められ息が苦しい……、だけど今の俺は静月が怒れば怒るほど気分が良いという、マゾッ気全開中……。 そりゃ……言ったかも知れない、いや言ったわ、覚えてるけど、あれは無理矢理お前に言わされたんだろうが! 快楽塗れのぶっ飛んだ思考の、そんなエッチ真っ最中での交渉は破棄できるわ! なんて勝手な男なんだろう、だいたい自分は他の奴といちゃこらしてて、俺には誰ともつきあうなとか、第一、俺らそんなお互いを縛る関係じゃねーだろ。 いや、その前にもう関係ないだろよ、お前には……ああ嫌だ、あいつの名前とか口に出したくもない。 「まあ見れば分かることだ」 そして静月はこの上なく残酷そうな微笑みを浮かべながらそう言うと、俺のベルトに手を掛けた。

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