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あれからほぼぐっすり熟睡してた俺は元気を取り戻し、放課後になって保健室のベッドからノロノロと起き上がると、教室へと向かう途中で職員室から出て来た静月と廊下でバッタリ出会ってしまった。
偶然過ぎるだろこれ……、授業をサボッたこととか、他にもいろいろ考えると、今顔を合わすのは何だかバツが悪かった。
静月は教師から信頼されており、何かと雑用を言いつけられている。
ただ不思議なのはこの暴君が、意外にも真面目にその雑務を熟していると言うことだ。
もしかしたら俺が思ってる程には、軟派な奴ではないのかもしれない、その証拠に成績は学年トップクラスだ。
「まあ怠いのはわかるけどさ、授業受けた方がいいんじゃないか?」
いつの間にか俺の横を並んで歩く、静月が俺を見てシレッとそう言った。
誰のせいだよクソビッチ!
俺は静月を無視して誰も居ない教室に入ると、鞄を持って再び廊下に出て来た。
将生たちはそれぞれ部活やバイトへ向かうと連絡があったので、今日は一人で下校する予定ではあったが、タイミングが良いのか悪いのか、帰りが静月と一緒になるとか……。
保健室で心落ち着かせたつもりが台無しだ、そう……コイツの横にいると胸がざわつき息苦しい。
チラリと盗み見た静月の横顔は、いつ見てもハッとするような整った顔で、そして涼しげに微笑んでいた。
どうせ良からぬことを考えてそうだが、その笑みさえ爽やかに見えるとか、悔しいけどホント男前だわこいつ……。
遠くのグラウンドでは陸上部員が走っているのが見えた。
あちこちから掛け声が上がっている。
「彼奴がこっち見てるよ」
「え?」
静月が向いてる方へと視線を辿ると、遠いグラウンドの先に将生がいた。
サッカーの練習をしているらしく、手にはボールを持っていて、遠すぎて表情こそ読み取れないが、その場に立ち尽くしてこっちを見ていた。
あちゃ……。
そして手を振られて、仕方なく俺も振り返す。
静月と一緒に下校するとこ見られて、何だか申し訳ない気持ちと後ろめたさを感じる。
「あいつ本当に葵のこと好きだよな」
そうだよ……多分。
だから俺の癒しの元でもあり、とても頼りになる親友だよ……。
おまえなんかよりずっと信頼している。
「だけど葵は渡さないよ」
え……、ドキッ……。
静月は真顔で、チラリと俺を横目で見ながらそう言った。
そこに何時もの小バカにしたような笑みは見えず、気のせいか少しばかりの真剣さが感じられた。
だけど、他にも付き合ってる奴がいるだろうに、そんなこと言うコイツが信じられない。
「これから家来る?」
「なんで?」
すげぇ久しぶりに誘われたけど、どうして今頃になって?
「なんでって、葵と一緒に居たいから?」
…………。
どういう意味だよ、わけわかんねー。
とか、考えていたらネクタイ捕まれて、静月の方へ強引に引っ張られると、いきなり唇が重なった。
んぐっ!
「何すんだよ!」
将生に見られたんじゃないかと思い、焦って静月を突き放しながらグラウンドの方を向いたら、俺らは丁度木に隠れて姿が見えなくなっていたので少し安堵した。
静月とのキスシーンとか絶対将生には見せたく無い。
もしかしたら静月もそこは配慮したのか、たまたま木に隠れてしまったのか、そこは良くはわからない。
まさかね……、他人に気を遣うような男では無いなおまえは……。
「来てよ」
魅惑的な笑顔を零しながら俺を見ている静月に、俺は何時しか大木背に押し付けられていた。
静月の懇願とか珍しいと思いつつ、再び近づく唇を自分の意志ではどうしても避けられなかった。
ちょっとだけなら……プライドの優先順位が低い俺が、その笑顔に絆されてついそう思ってしまった。
くちゅ……ちゅ……、舌が絡まり吸い上げられる。
うん……やっぱ気持ちいい。
でも、なんでこんなことするんだよ……、もう放って置いて欲しいのに……。
心がかき乱される……。
それに、キスのひとつで俺は心躍らされても、お前には特に意味は無く、ただヤリたいだけなのかと思うと何だか寂しい……。
「葵は俺と一緒に居たくないの?」
「……居たく、ねーし……」
ツンデレか俺……、騒ぐ心とはうらはらな言葉がつい出てしまう。
「俺が葵に来て欲しいんだ、お願い……」
やめろや!
そんな蕩けるような笑顔を零すのは、かっこ良過ぎるじゃねーか!
その魅惑的な微笑みが、俺の心を揺らすことを十分に知っている静月は、分かっててそれを武器に使ってくる。
頭は行ってはダメだと警告音を鳴らすが、握り絞められた手首から静月の体温が俺の身体に伝わり、熱はじわじわと俺を溶かし始める。
結局は何時ものように強引に、俺の中からすべてを掻っ攫っていくのだこの男は……。
そしてそれを拒否れない俺……、それは二人で過ごした時間がどんなに最高だったのか、思い出したら決して断れないだろう。
なるようになるかな……、少しばかり荒んだ心で俺はぼんやりそんなことを考えつつ、静月に手を引っ張られながら出て来た校門で、前を歩いていた静月がいきなり立ち止まったので、その背中に思い切りぶつかってしまった。
なんだよいきなり止まりやがって。
ん?
静月の背後から覗いた先に居たのは、可愛い微笑みを零しながら立っていた、木下潤だった……。
「まだ中に居るって聞いたからここで待ってたんだ。これから遊びに行っていい?」
潤は静月を見ながら、透き通るような綺麗な声でそう言って、誰もがうっとりするような綺麗な顔で微笑んだ。
そして次の瞬間、静月が俺の手を離した……。
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