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第2話 最悪な出会い

私は私立聖凰院高校の国語教師で去年は3年の担任だったが、今年は1年7組の担任になった。 サッカー.バスケット.柔道.バトミントンなどスポーツ強豪校としても知られ、地方から受験する生徒も多く寮も完備され2年前に国からの補助金と多額の寄付により新校舎が建てられた。 新校舎には1年生と新しく各特殊教室と事務局があり2~3年は旧校舎で職員室があり、渡り廊下で移動は可能だった。 1年生担任の私はお陰で新校舎で過ごす時間が多く、旧校舎には職員会議や資料を取りに来る位と図書室に用がある時以外は殆ど新校舎の国語科準備室に居る。 その日はたまたま旧校舎の図書室に用があり、空き時間(受け持ち授業が無い時)に、旧校舎内を歩いてた時ヒソヒソ……話し声が聞こえた。 ん?午後の授業は始まってるはず……? サボりか? 割と裕福な家庭が多い私立学校で、偏差値もそこそこ高く不良やヤンキーと言う類いは余り見当たらないが稀にサボったり不埒な行為をしてる者も中には居る。 男子校と言う事もあり、個人を尊重し社会の秩序を守って居れば.大きな問題を起こさなければ、ある程度の自由が効く学校の為、教師によっては見て見ぬ振りをする教師も多い。 屋上に繋がる階段の方から聞こえ注意をしようと、階段を数段上がり足を止めた。 ヒソヒソ…と話してたと思った声が妙な声に変わる。 どうやら屋上の扉は鍵が掛かって開かないから、踊り場で……。 困ったもんだ‼︎ 幾ら男子校で女の子が居ないからと言っても……まあ若く性欲旺盛な時期で解らないわけじゃないが……。 度々、そう言う光景を目にしたり耳に聞こえてきたりするが……。 ここは閉鎖的だからな。 今だけなんだろうが、社会に出ればそう言う事も若い時の過ちや思い出となっていくと、私は思ってる。 だが、今は授業中だ! 見過ごすわけにはいかない‼︎ 「ぁん…ねぇ…そろそろ…いいでしょ?」 「挿れて欲しいって言えよ!」 そんな声が静かな空間の中で小さく聞こえた。 「今は授業中だぞ‼︎ 直ぐに、教室に行きなさい‼︎」 私は大きな声で数段上がった階段から、屋上の踊り場に居るだろう生徒に下から声を掛けた。 「ギャッ!」 声が聞こえ、直ぐにカチャカチャ…ベルトを上げる音と階段を物凄い勢いで下りて来た生徒は顔を伏せ、私の横を通り過ぎて行った。 あれは……3年の山下? 男遊び(同性)が派手で、教師の中でも噂になり私の耳にも入ってきて知っていた。 少し経ってから、慌てる事もせず太々しく階段を下りて来た者は私の顔を睨みつけてたが、私は怯む事もせず教師として当たり前の事をしたまでだ‼︎と、その目をジッと見つめ目を逸らす事はしなかった。 目が合い暫く睨み合う(見つめ合う)形になったが、相手の方が目を逸らし私の横を通り過ぎて行く時に 「チッ‼︎」と、舌打ちをして大きな図体で去って行った。 あれは……確か……海堂? へえ~、あれがねぇ~。 随分デカいなぁ~。 やっぱ、睨む顔は迫力がある。 この高校では居ないタイプだな。 噂で聞いてたより悪く無さそうだな。 中途半端な時期に、2年の夏休み明けから編入して来た海堂の事は職員室でも噂になっていた。 「どうもヤクザの息子らしい」とか「喧嘩で相手を殺しそうになって、少年院に行きそうになった」とか「ヤンキーのリ-ダ-だった」「女の子を妊娠させた」「中絶させた」など、色々と教師の中でも噂が広がってたが、校長や教頭が何も言わないので真意は解らない。 私は1年の担任で、たぶん来年はこのまま持ち上がりなんだろうから、関わる事はないだろうと思ってた。 「噂は噂でしょ?ここに居るのであればイチ高校生ですよ。他の生徒と変わりませんよ」 軽い気持ちで噂話を流し話して居た。 今日、こうしてたまたま会わなければ、今までも会う事は無かったし、これからも早々会う事はないだろう そう思い、私も予定していた図書室に向かった。 事実、それから海堂と学校で会う事は無かったし、私も日々の業務と担任として自分の生徒達の事で忙しくこの最悪な出会いの事は忘れていた。 それが、どんな因果なのか? 数ヶ月後、海堂が3年生になった時の担任になるとは思いもしなかった。 この時初めて龍臣と出会ったのは、龍臣が2年生の2月だった。

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