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第18話

5月中旬から末に掛け、芳村は3者面談で忙しそうだった。 小池からの連絡もまだ無く、俺達は平穏無事に過ごして居た。 3者面談の為に午前中だけの授業が1週間程続き、俺達3人は学校終わりに街に繰り出し遊んでた。 寮に帰って来ると夜には誘われるがまま相手をする日々が過ぎていった。 祐一も伊織も3者面談終わり、そして1番最後に俺の番がやってきた。 俺で3者面談は終わりだ。 芳村の計らいにより、気兼ね無く親父も来れると芳村に感謝してた。 廊下で待つ俺は少しイライラ…して待って居た。 「おっせぇ~な」 約束の時間を少し過ぎて居たが、まだ親父は来て居なかった。 教室の中で、書類やらを見て居た芳村も廊下に出て来た。 「道でも混んでるのかも知れないな。海堂で最後だし、時間は気にしなくって良い」 「悪いな」 芳村も忙しいだろうに、俺がイライラ…してるのに気が付いて宥め諭すように話す。 スーツを着て堂々とした風貌で歩いてくる親父が見えた。 「おっせぇ~ぞ!」 「おう! 済まん.済まん。道が混んでたからな」 太々しい態度で軽く手を上げそう言うが、全然済まなそうな態度じゃない。 俺と芳村の側に来ると、改めて芳村に挨拶した。 「龍臣の父です。本日は宜しくお願いします」 「こちらこそお忙しい中わざわざご足労いただきました。では、教室の中で」 教室に入り、机を挟んで芳村の前に親父と2人並んで座る。 親父は教室の中をキョロキョロ…見回してた。 「何、見てんだよ~」 「いや、あまり来る事がないからな」 「恥ずかしいから、止めろよ」 「まあ、そう言うな」 俺と親父の会話を優しい目で見てた芳村が口を開いた 「早速ですが、今日、お越し頂いたのは海堂君の進路の件です。GWにご両親と良く相談の上、進路の紙を提出してくれる事になってましたが、海堂君からは卒業後は家業を継ぐと書いてありましたが、ご両親も了承済みって事で宜しいですか?」 「ほう~。相談は無かったが、いずれは家業を継いで貰うつもりです。1人息子でもありますし、先生もご存知だと思いますが、うちには若い衆もおりますし店も何軒か経営してるんでね。その若い衆や従業員を食べさせていかないといけません」 俺も小さい時から自分の取り巻く環境の事や家の事は充分解ってた。 だから、親父達に相談しなくとも家業を継ぐのは当たり前だし、俺自身もそのつもりだ。 「そうですか。ご両親との意見が一致してれば問題はありません。海堂もそれで良いのか?」 「ああ」 俺の返事を聞いて芳村は少し考え、それから親父に向かって話す。 「1つ確認しても宜しいですか?」 「どうぞ、何でも」 「家業を継ぐのは、ご家族の間でも決まってるようですから、それは宜しいと思います。でも、それは高校卒業して直ぐじゃないといけないんでしょうか?店の経営など、色々勉強する事は山程あるはずです。どうでしょう、大学に行って経営学を学んでからでも遅くないんじゃないですか?大学4年間で経営を学び、色々な人との付き合いでも学ぶ事が多いと思いますよ。経済的に大学行けないと言うならお勧めはしませんが、大学進学も考えてみませんか?海堂君にとっても視野が広がり、今後の人生に生かせると思いますが、どうでしょう?」 俺は大学なんて考えてもみなかったから芳村の提案は驚いたと同時に、俺の先の事を考えてくれた芳村に感謝と喜びを感じた。 親父は顔色1つ変えずに暫く考えてた。 「こいつが行きたいって言うなら構いません。これからの私らの世界も厳しくなる。もう私らの時代とは違う、大学で経営なり多くを学ぶのも良いと私は考えてます。後は、こいつ次第です」 うん.うんと親父の話を聞いて、今度は俺の方を向き目を真っ直ぐに見て話す。 「どうだ?お父さんもこう言ってらっしゃる。大学に行く気はないか?これからの海堂の人生に必ず役立つと思う」 俺は思ってもみなかった事に面食らい、直ぐに返事は出来なかったが1つだけ聞いた。 「考えてもみなかった事で、直ぐには何とも言えないけどよぉ~、大学って俺の頭で行けんのか?」 「今のままでは、ちょっと厳しいがまだ時間はある。これからやれば大丈夫だ。私も力になる。海堂は成績はそんなに悪くないし、私の考えでは成宮と桐生が希望してる大学はどうだ?成宮は学部は違うが、桐生は将来的に自分で店を持ちたいらしく経営学部に希望してる。これから頑張れば、まだ充分可能だ。大学進学も1つの選択肢として考えてみろ」 伊織と祐一と……大学生活? また、あいつらと学生生活出来るのか? そう思うと、俺の気持ちは大学進学に傾き始めた。 「……考えてみる」 「そうか。遅くとも夏休み前には連絡欲しい。決まったら教えてくれ。家業を継ぐにも、お前の肩に従業員の生活が掛かってくるんだ。きちんと学ぶべき事を学び、お父さんも仰ってらしたがこれからもっと厳しい社会になる。先頭に立つ人物がしっかりしないと誰も着いてこない。その為にも自分を磨く事だ。海堂にはその素質が充分にある。相談はいつでも乗るから良~く考えてみる事だな」 「はい」 俺が珍しくきちんと返事をした事に笑ってた。 親父も芳村の話を感慨深く聞いてたようだ。 それからは親父は他の親と同様に学校生活はどうか?友達はどうか?と芳村に質問してた。 「特に仲の良い友人は2人ほど居ますよ。いつも楽しそうにしてます。ご安心下さい」 芳村が笑顔で話すと親父も安心したようだ。 「では、先生。愚息ですが、これからも宜しくお願いします」 親父が滅多に下げない頭を下げて3者面談は終わった 教室を親父と2人で出て廊下で少し立ち話をした。 「良い先生だな。お前の事を理解しようとする気持ちが伝わってきた。この学校に来て良かったな。友達にも先生にも恵まれた。良い出会いがあったようだな。大学の件はお前の好きにして良い。確かに、先生の話す通りだ、これからはわしらの世界はもっと厳しくなる。義理人情だけで生きてはいけない。これからは頭と知恵で生きていかないとな。今日は来たかいがあった。母さんにも話しておく」 「親父……俺、ここに来て本当に良かった。ありがと」 照れ臭いが、素直に感謝の気持ちを話した。 親父も嬉しそうに笑った。 「親父、気を付けて帰れよ。車だろ?」 「ああ、駐車場に待たせておる。じゃあな」 廊下を歩いていく親父を見送り、芳村の居る教室に戻ると机を直してる芳村を手伝う。 「芳村、ありがと」 素直にお礼を言うと、目が垂れ微笑んで 「良いお父さんじゃないか。大学の件は諦めずに良く考えてみろよ」 俺の頭を子供にするように撫でた。 小さな時に親父や母さんにして貰った以来で、少し気恥ずかったが芳村にされると嬉しかった。 「うん」 「そうか」 辺りが暗くなり始めた夕暮れ時に、2人っきりの教室で芳村を抱きしめたくなるのを手を握り締めて我慢した。 まだ早い! やっと芳村と親しく話せるようになったばかりだ。 他の奴らにも担任として一緒に考えてやってるんだろうけど、俺にとってはこんなに親身になり俺自身もそうだが、家の事も理解してくれる芳村の心の広さと平等さが心に響いた。 今までこんな奴居なかった! やはり、芳村が欲しい! 俺の者にしたい‼︎ 改めて強く思った日だった。

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