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第24話
いつもの如く昼休みに芳村が居る教務室に行くと
「海堂、お前の昼寝場所じゃないんだけどな~」
半分呆れ半分笑って話す芳村は俺がここに居る事に、徐々に違和感が無くなってきてるように思える。
こうして少しずつ距離を縮めていくつもりだ。
焦らずに、じっくりとな。
「ここ、居心地良いしな」
「そうか?」
3者面談から数週間経つが、俺はその間もここに度々来てたが進路の件は言ってなかった。
芳村も触れてはこなかった。
たぶん俺の家の事は直ぐに決められないと、考える時間をくれたんだと思った。
俺はいつものソファには行かずに、芳村が座ってる机の前に立った。
「ん?どうした?」
「……俺……大学…行く事にした」
芳村の薦めもあったが、報告するのにドキドキ…した
照れもあったかも知れない。
俺がそう話すと、芳村は直ぐに破顔し椅子から立ち上がり手を伸ばし「そうか.そうか。決めたか」と、俺の頭を数回撫でた。
芳村の咄嗟の行動に、俺は目を見開き驚きまた照れた
俺の頭を撫でるなんて、親父や母さん以外で初めてだ
小さい時にされて以来何年振りだろう。
直ぐに戻した手が寂しく感じた。
「色々…考えて決めた!」
「良いと思うぞ。これからの社会の情勢次第で、お前の世界も大きく変わるだろうし、その間に知識を学ぶ事は必ず役に立つ!」
社会的に暴力団に対する風当たりが強くなり取締りも厳しい世の中に、芳村はこれからはもっと厳しく生き難い世界になると暗に話してた。
俺の将来の事を考え心配する芳村は担任だとしても、ここまで俺の事を考えてくれた先生は1人も居なかった。
「解ってる」
「会社でもどんな組織でもリーダーが頼りないボンクラだと、誰も着いて来ないぞ」
「誰がボンクラだって?」
「ん?海堂?」
そう言って笑う。
辛辣に話すが冗談だと解ってた。
冗談を言える位には親しくなったと、嬉しさを覚えた
「で、ご両親には話したのか?」
「親は俺の好きにして良いって言うから、別に言ってない。でも……伊織や祐一には話した。あいつらも喜んでくれた」
「ご両親には報告しないで、成宮や桐生には言ったのか?仲が良いなぁ~。でも夏休みにでも、ちゃんとご両親には報告するんだぞ。まあ、早い方が良いに越した事はないけどな。そうか、成宮と桐生も喜んでくれたか、良い友達を持ったな」
また、俺の頭を撫で自分の事の様に喜び笑う。
直ぐに離れた手が寂しい。
「ああ。あいつらとは一生涯のダチだ」
社会人になったら疎遠になるかも知れないが、俺の中ではそう決めて居た。
「そう思える相手はなかなか出来ないぞ。良い出会いをしたな」
「ああ」
短く返事したが、心の中で ‘あいつらだけじゃない芳村もな’ と、口には出さず思ってた。
「じゃあ、それだけ言いに来た」
「何だ、今日は寝ていかないのか?」
「あんま、寝る時間もねぇ~し」
「そうか。また何かあったら遠慮なく言ってこいよ」
「ああ、大学受験の件とか勉強面の相談するかも」
「かもじゃなく、相談しろ。その為の担任なんだから」
「ん、解った」
‘相談しろ‘ と言う芳村の言葉で、俺はまたこれでここに来る口実ができたと、心の中でガッツポーズした。
芳村も椅子に座った所で、俺も教務室を出た。
ドアを閉め、その場で頭を触った。
撫でられた頭は親しさを思わせ嬉しかった。
頬が緩み、あいつらに無性に会いたくなった。
バカ話しでもしてる伊織と祐一が待ってる教室へと歩き始めた。
別に話す必要もないとは思ったが、俺はこの数日後に電話で親父に報告すると「お前が決めたなら良い‼︎」と、それだけだっだが声は嬉しそうだった。
母さんも親父から聞いて嬉しかったのか?夏休みの塾の夏期講習を勝手に申し込んでた。
高校最後の夏休みを思いっきり遊ぼうと考えて居ただけにがっかりしたが2週間程だと頭を切り替え、母さんが俺の事を考えてしてくれた行為だと感謝もした。
結局、それは功を奏した。
伊織も祐一も夏期講習を申し込んでたからだ。
同じ塾ではないが…それでもあいつらも頑張ってると思うと俺も頑張れた。
それは少しまだ先の話だが。
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